第5話 廃墟塔の王女

 ヤケクソで、俺は攻撃を畳み掛けた。


 しかし、相手も地の利を活かして、俺の攻撃を華麗にさばく。


「ほんとに元、細剣使いなのかよ!?」


 ブレンダは軽々と、デカい大剣を攻守バランスよく使いこなしている。愛用の武器だった聖剣ハイペリオンとは、コンセプトが真逆だってのに。


 今度は、俺が後ろに下がる番だった。


 打ち合う度に、ブレンダの魔剣から放たれるオーラが膨れ上がっている。


 大技が来るに、違いない。


「おねーちゃーん。またお水が出なくなったー」


 俺の真後ろから、声がした。


「はい。ちょっと待っていてくださいね」

 

 おねーちゃんと呼ばれたお姫様風の女性が、子どもからの指示で蛇口を捻っている。

 黒のツインテ、パフスリーブのついたシャツに、フリルのミニスカート。

 ともすれば、「地雷系」と言われそうなルックスだ。

 そんな外見であるが、子どもたちは少女を慕っている。


「そうですね。少し調べて見ましょうか」


 地雷系少女が、地面をさすった。


 手頃なポイントに絞って、手を押し込む。


 心臓マッサージでもされたかのように、水が蛇口から溢れ出した。


「すごーい!」


「たいしたことは、ありませんよ」


 地雷系少女は、出てきた水で手を洗う。 


「よそ見をしていていいのか、シモン?」


 おっと、俺はブレンダと戦闘中だった。

 

「この塔に来てから数倍の力を得たワタシの技、受け止めきれるか?」


「待て待て、ブレンダ! ここで撃つ気か!? 後ろに子どもがいるんだぞ!?」


 こいつ、こんなヤツだったか!? 


「あのお方なら、問題ない。【閃空斬】!」


 赤紫色の剣閃が、俺に向かって放たれた。


……あのお方だと。


 俺は黒雷で、どうにか受け止める。


「おおおお! 当たるなよ!」


 どうにか俺は、閃光を跳ね返した。うまいこと、空に逃げてくれたようだ。


 しかし、俺の身体自体はどうしようもない。お姫様ルックの少女に向かって吹っ飛んでいく。


 蛇口は直ったようだな……って、言ってる場合かよ!?

 

「危ねえ、お嬢ちゃん! よけてくれ!」


 言っても、もう遅い。激突は免れないようだ。


 だが、そうはならなかった。


 お姫様は流体のように身体をくねらせて、俺をかわす。


「な……ごほおお!」


 と思った瞬間、俺のみぞおちにお姫様の正拳突きがめり込んだ。

 

 俺は直角に方向転換して、壁に激突した。そのまま、ズルズルと床へ落ちていく。


 正拳突きをかました姫様は、構えを解いた。


「何事ですか、ブレンダ?」


「なにもございません。ヒナ王女。たった今、張り紙を見つけたという志願者をテストしておりまして」


 ヒナ、王女だと?


「こちらの方がですか?」


「はい。名は、シモン・セルバンデス。実力は、ご覧の通り。ワタシとも幾度か戦いまして、実力はお墨付きです」

 

「そうですか。たしかに、見込みはありそうですね」


 ヒナ王女らしき人物は、俺の元に歩み寄る。ローファーを、コツコツと鳴らしながら。


「はじめまして、暗黒騎士シモン・セルバンデス。わたくしが、ヒナ・エイジア。勇者キサラギ・ケン・エイジアの姪です」

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