第9話 微睡

 その晩、門野は微睡の中にいた。

 進むはずの前方は、ぼやけており、足元を見れば枝分かれする二つの道の分岐点に立っていた。標識などはない。草木や雲間から光景を推測するに足る情報を得ることもできなかった。

「どっちにしようか」

 振り返ってみたが、自身の後方には道がなく、前に進むしかない。

 ――でも、どっちに?

 門野はゆっくりと瞼を閉じ、呼吸を深くした。速かった心拍数が通常に戻った瞬間、門野は目を覚ました。おもむろに身を起こす。勉強机のところには袴者もとい、神が腰をおろし、霊獣も部屋が狭いと言わんばかりに身を丸くしていた。

「何だ、現れたのかよ」

「ああ、それで」

「それで?」

「気持ちは決まったのか?」

「ああ」

「そいつと仲良くやるんだぞ」

「他人事みてえだな」

「ああ、少々都合ができてな。しばらくお暇するよ。そいつにはすでに言ってある。後は仲良くやることだな」

「はいはい。仲良くかどうかは保証できないがね」

「それも良きこと」

 そんなことを言って、袴者は部屋から姿を消した。

「ずいぶんと勝手なもんだな。ま、神様だしな」

 門野は少し汗で重いティシャツを真新しいものに変えた。

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