第3話 私は貴族が許せません
父は騎士達に連れて行かれてしまい、訳がわからず私は必死で追いかけましたが馬車に追いつくはずもありません。
周りは何事かと大騒ぎになっていましたが、誰も助けようとする者はいませんでした。
当たり前です。平民は貴族には敵わないからです。
私は急いで家へと帰りました。取り乱した様子の私をなだめながら、何があったのかと母に問われ、一連の話をすると母は震えながらもきっと大丈夫よ、と私を優しく抱きしめました。
私たち平民に出来ることは、ただ無事を祈りながら待つことだけでした。
数日後、父はぼろぼろの姿で戻ってきました。目は正気を失い、手足は腫れ上がっていました。
「お父、さん...」
あまりの姿に、私も母も言葉を失いました。騎士は投げ捨てるようにして父の背中を押すと、ふんっと鼻で嘲笑うかのように私たちを見ました。
「レジェル伯爵様を貶めるようなことをするからこんな事になるんだ。大人しくしていればよかったものを。ザーグ公爵様の邪魔がなければ今頃...はっ、命拾いしたな」
そう言い残し、去っていきました。
後に知ったのは、レジェル伯爵令嬢のソルビア様は、ある貴族の御子息の気を引きたいがために母のデザインを真似し、お店で販売したのだと言うことでした。
どうやら母のデザインがたいそう気に入った御子息の母親が、誰が仕立てたものなのかを探していたそうなのです。
それを聞きつけて、ソルビア令嬢は自分のデザインだといえば彼に近づくことができるかもしれない!と思い実行しましたが、私たちが自分たちのデザインだと主張するような事をしたため、立場が悪くなった令嬢は怒って父を捕らえたと言うことでした。
あまりに身勝手な行動に、私は怒りで震えました。どうしてそんなことができるのよ。
けれど、私が怒ったところでどうすることもできませんでした。雑貨店は廃業となり、父と母はすっかり落ち込み正気を失ってしまったのです。
店を売り払うため、最後の店の清掃をしていた時です。ドアがノックされ、一人の大柄な男性が入ってきました。
「...アシクスはいるか?」
腕の部分には...公爵家の紋章、そして皇帝専属の騎士団にしか着用が許されないマントを纏ったその方こそ、私が仕えることとなる旦那様、アクリウス公爵様でした。
「...父はここにはおりません。何か御用ですか?掃除で忙しいのですが」
「そうか、すまなかった」
私は冷たく答えました。平民が貴族に対してこのような口を聞くことは、かなり失礼にあたることは承知の上でした。
もう、怒られようがどうされようがいいわ。それくらい、貴族が憎かったのです。
けれども公爵様は怒るどころか平民の私に対して謝ってきたので、私は驚いて公爵様を見ました。
「手足をひどく痛めていただろう。これを渡しにきたんだ」
そう言って差し出してきたのは、塗り薬でした。
「これを...父親に塗ってあげてくれ。少しはマシになるだろう」
そう言って私の手に薬を置くと、「邪魔して悪かった」と言い残し、馬に乗ってそのまま去っていかれました。
「...なんなの」
何故あの方が私の父のために薬を持ってわざわざ店まで来たのか、意味がわかりませんでした。
家に帰って、先程のことを伝えて父に薬を渡すと、父は涙を流していました。
「あぁ、あのお方が...。ナリア、父さんが生きて帰って来れたのはあのお方のおかげなんだ」
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