モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル

第1話 私はモブのメイドです

こんにちは。

メイドA改め...ナリアと申します。

名前のないモブからの突然の昇格に驚いております。



それはさておき。



いきなりですが、私は今とても困惑しております。



もちろん、旦那様と奥様のラブラブっぷりを見せつけられているからとか、旦那様の溺愛ぶりが最近ますますひどくなったとか、そんなことが理由ではありません。



まぁ、微笑みを浮かべるのも段々しんどくはなってくるのですが、それでも仕えるご夫婦の幸せそうな姿を見るとほっこりするのも事実。



さて、それより。この目の前にあるものは一体どういう意味なのか。



「あら、どうしたの?まぁまぁ、とっても綺麗なお花じゃない!」



私がため息をつきながら眺めているそれを見て、メイド長が嬉しそうに声を上げました。



ええ。綺麗ですよ、花は。

花に罪はありませんからね。



問題は、これを持ってきた人物です。



私は数時間前のことを思い返しておりました。






「メイドA!」



いつものように庭の掃除をしている時です。突然誰かに呼ばれた私は驚いて声のする方を見ました。



...げっ。



「あからさまに嫌な顔をするな」



苦笑いでそう言うのは、私が仕える旦那様の幼馴染であるマリウス公爵様です。



何故かあの日以降私のことをモブ名(?)で呼び、時々こうして旦那様がいない日でも訪ねてくるのです。



「あいにく旦那様は本日外出中なのですが」



「あぁ、別にアクリウスに用がある訳じゃないから」



...だったら何しに来たのでしょうか。



「何しに来たんだって顔してるな」



ぎくっ。

な、何で分かるのですか!?



もしかしてこの間のように心の声が口に出てしまっているのでは...。



私は焦りながら冷や汗をかきました。この間とは、旦那様と奥様の記念すべき日のこと。



どうしてもこの日はお二人だけにして差し上げたくて、突然遊びに来たマリウス公爵様を追い出そうと...ゔゔんっ、今日のところはお帰りくださいとお伝えした日のこと。



心の声で悪態をついたはずなのに、口に出して発言していたのです。あの日のことは思い出すだけでも背筋が凍ります。



...まぁ、誤魔化せたからいいのですが。(誤魔化せてませんよ)



「顔に全部出てるぞ」



くすくすと笑いながら、マリウス公爵様は楽しそうに笑いました。



「俺のことをこんなにも邪険に扱うのは君くらいだ」



確かに、マリウス公爵様はとても綺麗な顔立ちをしています。切長の目に淡いブルーの瞳、グレーの髪色。甘い顔立ちというか、女性と言われても特に驚かない程、本当に綺麗という言葉がぴったりな顔立ちをされています。



それに公爵という地位に皇帝の騎士団で旦那様の右腕として副団長も務めるお方。



地位や名誉もお持ちでこの顔面。世の令嬢方が放っておくはずはないでしょう。



...性格に難はありそうですが。



「これを渡しに来たんだ」



手に持っていた花束を私に手渡すと、それじゃあまた来ると言ってそのまま去っていかれました。



オレンジ色の様々な種類の花が入っています。とにかく全部オレンジで揃えました!という花束。



何でオレンジなのかしら?

それに、本当に何をしに来られたのでしょう。この花を旦那様と奥様に贈るためでしょうか...



不思議に思いながらも、マリウス公爵様の意図が全く読めず困惑するのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る