エピローグ 揺れる影の先に ― 消えない灯り

揺れる影の先に、愛か罪か、答えはまだない。

週明けの朝。

空は淡く曇り、風は夏の残り香を押し流すように冷たい。

制服の袖を整え、玄関の扉に手をかける。

閉じる直前、ふと振り返った。

リビングの灯りの下、真紀さんがカウンターに手を添えて立っていた。

見送るでもなく、ただそこにいる。

それだけで、昨夜の抱擁の重みが蘇る。

──名前をつけられない熱。

──背中に刻まれた記憶。

その残り火が、私の一歩を重くし、同時に支えた。

通学路は、いつもの朝と変わらない。

ざわめき、雑踏、制服の群れ。

けれど私はひとりだけ、別の速さで歩いている気がする。

鞄の中には、彼女が詰めてくれた弁当。

ほんの少し米粒が乱れていた仕草を思い出すだけで、胸が熱を帯びた。

信号待ち。

スマホを開く。

〈おかえりなさい〉

一行だけ打って、指が止まる。

画面を消しても、熱は消えなかった。

夜。

秋の虫が鳴く。

布団に横たわると、あの夜の囁きが甦る。

──好きよ。

──線を、忘れないで。

唇の柔らかさ。

指先に絡んだ温度。

罪の名を呼んだ夜は、もう戻らない。

けれど、私の中で今も続いている。

「……好き」

誰にも届かないのに、確かに届く言葉。

やがて瞼が重くなり、静かな眠りが近づく。

その狭間で、まだ見ぬ景色を思い描く。

──もし線を越える日が来るなら。

それは崩壊ではなく、希望と呼べる瞬間であってほしい。

たとえ世界が許さなくても。

胸の奥で灯りが小さく揺れる。

風に消えそうで、それでも消えない灯り。

その光を抱きしめながら、私は眠りへと沈んでいった。

────────────────────

【あとがき】

ここまで読んでいただきありがとうございます。

義母と娘――家族という最も近しい関係の中に潜む「禁断」を描きたいと思い、この物語を書き進めてきました。

背徳でありながらも、そこには確かに「愛」があり、罪と救いの境界を揺れ動く姿をどうしても形にしたかったのです。

この作品は、単なる官能や背徳だけではなく、

「誰かを愛してしまうことの痛みと幸福」

「境界線を越えるときの怖さと救い」

――その狭間を描いた物語です。

もし少しでも心に残る瞬間や、胸をざわつかせる場面があったなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。

感想やレビューをいただけると、次の物語を紡ぐ大きな力になります。

どうぞ、これからも見守っていただけたら幸いです。

感想・ブクマ・♡を押していただけると、とても励みになります。


【共通タグ】

禁断/背徳/百合/依存/秘密/官能ロマンス


【話別タグ】

エピローグ/揺れる影/未来への余韻


凪野ゆう

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

女子高生の私と義母 ― 愛と罪の狭間で ― 凪野 ゆう @You_Nagino

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ