第2話
ハルオは一人、夜の街を歩く。
今回の任務は擦り傷ほどで済んだ。だから、コンビニ寄ってから帰ることにした。アキトはかなり疲れていたから、先に帰ってもらった。
(近道しよっと。)
薄暗い路地裏を通る。さっきの戦闘でできた擦り傷はとっくに治っている。その跡地に湿った夜風が当たり、チリチリとしびれていた。
それは突然だった。路地に出る直前で、肩をつかまれ、強い力で引き戻された。
「!....くっ。」
油断した。後悔したが遅く、何者かに組み敷かれた。
抵抗したがビクともしない。首筋に針の冷たい刺激が走る。同時に液体が注がれ、それが全身に回っていく。
熱い。気持ち悪い。蝕むそれが、全身の力を奪っていく。指先が鈍く、遠くなっていく。叫びたいが吐く息は薄く、はくはくと、か細い音が鳴るのみであった。次第に、視界の端から黒く染まっていく。
目を開けるとそこは、無機質な空間だった。体は冷たい台の上に寝かされ、手足は拘束されているため動けない。頭を動かし、周囲を見渡す。横には手術道具が並び、大きな機械が自身を取り囲むように設置されていた。
そこに、一人の白衣姿の男が入ってきた。それはハルオをのぞき込むとニヤリと笑い、「いい被検体だ。」と言った。
「おい!どういうことだよ!何するつもりだ!」
白衣の男はハルオの言葉を耳を貸すこともなく、メスを手に取る。
「実験開始。」
ハルオの腹の上でメスが走る。皮膚が切れ、肉が裂けていく。痛み、熱、内臓に当たる冷気が体を激しく迸る。
「あああ!,,,..ぐぅっ....がはっ。」
まもなく、切り口の端から再生が始まる。それを男は器具をつけて止めた。そして、開いた腹の中に、黒くドロドロした何かを突っ込んだ。
毒のような、寄生虫のような、その物体は周囲の細胞、組織、臓器を壊していく。ハルオの再生能力が追いかける。治す、戻る、繋ぐ。しかしその直後、また壊される。壊されれば治り、治っては壊される。その全てに苦痛を伴う。これは終わらない地獄だった。
「...っ....っぁあああああああ!」
声にならない雄叫びが、壁を震わせた。止めどない痛みで、理性が、自我が削がれていく。
どれだけ時が経っただろうか。視界が、自身の境界が、痛みで歪んでいく。いつの間にか拘束は外れていた。痛みを逃すように体を振り回す。遠くでドゴドゴとものが崩れる音がする。意識は断片的で、微かな人影が胸に浮かんでは消えた。
「ア...キト....。」
口から漏れたその言葉は何だったっけ。
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