第45話 クラウザー戦(前編)
闘技場が震えていた。
観客の声援がまるで地鳴りのように響く。
熱気で空気が揺らぎ、砂塵が舞い上がる。
この街が誇る最大の祭典——その頂点の戦いが、今まさに始まろうとしていた。
「決勝戦は! ハヤト対クラウザー!!」
実況の声が響くと同時に、観客席から大歓声が上がった。
色とりどりの紙吹雪が宙を舞い、闘技場を紅く染まる。
灼熱の舞台の中央で二人の戦士が向かい合った。
「……待っていたぞ、若き挑戦者」
クラウザーが片手でマントを払う。
真紅の布が風を裂き、その下から隆起した筋肉が覗く。
まるで炎が人の形をとったかのような存在感だった。
「クラウザーさん、一つだけ聞かせてください」
「なんだ?」
「あなたに……勝てると思いますか?」
「ハッハッハッ、愚問だな!」
豪快な笑い声が轟音のように闘技場を満たす。
「勝てるか否かは、君次第だ。——私は王者だ。だが挑む者がいる限り、私の炎は絶えぬ! ……さあ来い、若き戦士よ!」
その瞬間、足元が焼けるような圧力に包まれた。
クラウザーの全身から、紅い闘気が湧き上がる。
熱波が空間を歪ませ、砂をガラスへと変えていく。
「これが……絶対王者のクラウザー」
ハヤトはトレンチナイフを構えた。
手が震えている。だが——心は驚くほど静かだった。
クラウザーの拳が地へと向け、構えを取る。
観客のざわめきがすっと止まり、空気が張り詰める。
「では——始めようか!」
「ああ!」
審判の旗が振り下ろされる。
「それでは、決勝戦——開始!!」
「いくぞ! ——地雷震!!」
次の瞬間、轟音。
地面がうねり、亀裂が奔る。
闘技場の床が真っ二つに裂け、炎が噴き上がる。
観客席が息を呑むほどの衝撃だった。
「すごい……!」
セレナが思わず声を上がる。
「これが、王者の戦い……!」
フィオラもクラウザーの一挙一投足に目を奪われていた。
「戦いは——始まったばかりだぞ!」
クラウザーが拳を叩きつける。
瞬間、紅蓮の衝撃波が放たれた。
”地炎烈衝”——炎の奔流がハヤトを飲み込む。
「くっ……!」
ハヤトは咄嗟に跳び退き、ナイフを交差して爆炎を受け流す。
衝撃が腕を伝い、全身が痺れる。
それでも、何とか踏みとどまった。
クラウザーの瞳が僅かに見開かれる。
そして……満足げに笑った。
「ふふ、悪くない……!」
拳を包む炎が更に燃え上がる。
熱気だけで空気が歪み、砂粒が溶けて滴り落ちる。
その一撃一撃は、まるで——”火山の鼓動”そのものだった。
ハヤトは左手を掲げ、闇の魔力を集中させる。
「——《シャドウフレア》!」
黒炎の爆発が足元から噴き上がり、クラウザーを包み込む。
しかし次の瞬間、轟音と共に紅蓮の渦がそれを押し返した。
「闇の炎か……だが——私の炎は全てを照らす!!」
クラウザーが拳を突き出す。
炎が螺旋を描きながら黒炎を貫き裂く。
”烈火螺衝拳”——その拳圧は空を焦がし、闘技場の天井を震わせた。
俺は咄嗟に距離を取る。
全てが規格外すぎる……威力も速度も、キースやアカギの比じゃない!
息を荒げながらも、瞳には怯えではなく闘志が宿っていた。
「このままじゃ押し負けてしまう……崩すしかない。デバフで——!」
指先で闇の紋章を描く。
「——《ダークブレイズ》!」
黒い波紋が地を走り、クラウザーの炎が僅かに揺らいだ。
その瞬間を逃さず、俺は地を蹴った。
「……そこだッ!」
背後に回り込み、双刀が閃く。
炎と闇が交差し、爆発的な閃光が闘技場を包み込んだ。
観客席から歓声が上がる。
キースとアカギが並んで腕を組み、試合を見つめていた。
「……やるじゃねぇか、あの若造」
「出会った頃はひよっこだったのに、二週間足らずでこの成長ぶりは反則だね」
「来年、普通に優勝候補になってるかもな」
「……そうなったら、また面白くなるね」
その隣でトウフが拳を握りしめていた。
「ハヤト殿、勝ってくだされ……頼むでござる!」
観客の熱狂が爆発する。
二人の戦いは、もはや”勝敗を超えた激突”——生き様そのものだった。
クラウザーの全身が再び燃え上がる。
その炎の色は、もはや赤ではない。
金色に近い輝きが混ざり、周囲の光を飲む込むほどだった。
「いいぞ、少年! その目だ……その魂だ! 俺の心を——燃え上がらせてくれぇぇっ!」
クラウザーは拳を振り上げ、爆炎連衝撃を叩き込む。
爆炎が連続して叩き込まれ、衝撃波が空気ごと弾き飛ばす。
俺は黒い魔法障壁を展開しながら、紙一重で回避を行う。
(この威力……一撃でも喰らえば終わる。でも、まだ——やれる!)
左手に漆黒の球体を出現させる。
「——《ダークホール》!」
漆黒の球体がクラウザーの胸へと直撃。
しかし、炎に包まれた男は微動たりしない。
「余興としては十分だ……だが、これでは私の魂は満たされぬッ!」
クラウザーの雄叫びが轟き、炎が噴水のように噴き上がった。
闘技場全体が真紅の光に包まれ、観客の悲鳴が混ざる。
「……来るッ!」
クラウザーの”真の力”が解放されようとしていた——。
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