第43話 臨時の作戦会議

研究施設に戻ったミナを迎えたのは、慌ただしく走り回る研究員たちの姿だった。

空気が張り詰めていて、照明の点滅が不安を煽る。


——何か異常事態が起きているな、とミナは直感した。


出迎えに現れた人工AIのモッピーと会議室に向かいながら会話する。


「モッピー、何かあったの?」

「アーク一味ノ奇襲ニヨリ、モンスター製造施設ガ損傷。来襲計画ヲ早急ニ見直ス必要ガ出テ来タノダ」

「アークって、黒魔女に村人にされた奴でしょ? そんな奴にやられるなんて、アドミンの配下はどんだけ弱いのよ、しょーもな」


ミナは毒を吐きながら、モッピーと会議室の扉を開く。

部屋で座っていたアドミンは机を叩きながら、苛立ちを隠せない様子だった。


「おのれ、アークめ。この期に及んで我々の計画を邪魔するとは!」

「サブ的な位置付けとはいえ、一杯食わされたな」


「現時点で私の研究に手が及んでいないのが、せめてもの救いね。良い時間稼ぎになったわよ……アドミン?」

マチェスは冷静にスクリーンに映された画面を見つめながら、アドミンに言い放つ。


「チッ……!」


アドミンの舌打ちが響いた。

そんな彼を諌めるように、司会役のリーブが手を叩く。


「ミナも戻り、全員揃いましたので臨時の作戦会議を行いましょう」


「……で、来襲計画はどうすんの?」

ミナが腕を組み、早速切り込む。


リーブが手元の端末を操作し、モニター画面に複数の図面を映し出した。

「メインのモンスター供給元が絶たれたのは痛いですが、人型クローンの完成度が予想外に高いので、戦力的には問題ない。それに、モンスター供給元も一つではないのでね……」


マチェスが頷く。

「サブ拠点とはいえ、多少のお供くらいは準備できるわよね?」


アドミンが無言でキーボードを叩き、ポログラムに数値を投影した。


「少数精鋭という形になってしまうが、数十体程度は速やかに用意できる」

「よし、それでいきましょう。時間はどのくらい要りますか?」

「二日。——それで十分だ、可能な限り迅速に対処する」


リーブが頷き、視線をミナに向けた。

「ミナ、ハヤト一行を二日間、街に留めておいてください。マチェスへの進捗報告も継続で」

「準備が出来次第、一報を入れる」

「はいよ、あーしは戻るね」


ミナは軽く手を振って、会議室を後にした。


帰り道、薄暗い廊下を歩きながら、モッピーの声が響く。


「……冒険ハ、楽シイカ?」


「少なくとも、ここに居るよりはマシだよ。 いっそ、モッピーも一緒に旅に出ちゃう?」

ミナが冗談っぽく、モッピーに問いかける。


「……熟考ノ余地アリ。ミナト旅ニ出ルノヲ想像スルノモ悪クナイ」

「ふふ、やっぱりアンタは面白い奴だね」


ミナはモッピーの画面を軽く小突いた。

その瞬間、わずかに笑ったようにモッピーの画面が揺れた。


——そして、ミナは研究施設を後にする。

彼女の背後で、警告灯が一瞬だけ赤く点滅した。

それが”次なる計画”の合図だと気づく者はまだいなかった。

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