裏方デバッファー、仲間と紡ぐ冒険譚
アラーキー
プロローグ 世界から消えた勇者
『これは俺の物語ではない。勇者アークが絶望の果てに破れ去った記録である』
辺りは、死んだように静まり返っていた。
夜気に混じるのは、必死に走る俺の荒い呼吸だけだ。
——三十分前
俺たち五人は、規格外の異形に挑んでいた。
盾戦士は腕を吹き飛ばされ、僧侶の結界は一撃で粉砕される。
支援に回っていた魔導士も、呪文を唱えきる前に地へと崩れ落ちた。
最後に立っていたのは、俺ひとりだった。
俺の渾身の一撃を持ってしても、その再生は止められない。
切っても瞬時に傷が塞がる異形の姿は自然の産物ではない。
どこか人工めいた歪みが見る者の理性を侵す。
「・・・街まで、あと少しだ」
そう呟いた瞬間、背後に冷たい気配が差した。
振り返ると黒装束の女が、じっと俺を見下ろしている。
血の匂いはなく、風景に溶け込むようにそこに立っていた。
「勇者とあろうものが、無惨な敗走よのぉ」
若い顔立ちからは想像できない、底知れぬ威厳。
反射で剣を構えると、女は淡々と告げる。
「お主を始末せよと命じられてな。結果を出せぬ者に価値はないのじゃ」
仲間と共に過ごした思い出が軽く踏みにじられた気がした。
怒りが体を震わせる。
「ふざけるな、俺を誰だと思ってやがる!!」
「大した戦闘データも集められぬ、負け犬じゃろ?」
雷と闇が刃に絡みつき、黒い稲妻が走る。
狙いすました一閃ーー確かな手応えを感じた・・・はずだった。
だが、女は不適に笑って、無傷のまま立っていた。
「身の程を弁えよ」
次の瞬間、白光が俺を包む。
視界が裂け、喉の奥が灼ける。
半年を懸命に戦ってきた日々も、仲間の犠牲も、全てが氷解するようだった。
意識が遠のく寸前、女の声が冷たく響いた。
「始末する予定じゃったが、気が変わった。 屈辱を噛み締め、モブAとして生きるがよい」
——こうして、勇者は名を消した。
俺の物語は別の場所で静かに始まるのだ。
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