第3話 ミオの力

 村に泊めてもらえることになった夜。

 干し草を敷いた小屋の隅で、僕とミオは並んで横になっていた。

 小さなスライムが「ムニャ」と鳴きながら胸の上で丸まっている。

 ……可愛すぎて、眠れない。


「ミオ……ほんとに不思議だな」


 僕の声に反応して、ミオはちいさな泡のような目をきゅるんと光らせた。

 まるで「なあに?」と言いたげに。


 そのとき――

 外から悲鳴が響いた。


「ぎゃああっ! 魔獣だ!!」


 僕は跳ね起き、ミオも驚いて床に転がった。

 外へ飛び出すと、村の入り口で狼のような魔物が暴れている。

 村人たちは武器を持っているが、明らかに怯えていた。


「……僕に戦えるわけない」

 そう思った瞬間、胸元から飛び出したのはミオだった。


「ムキュッ!」


 ぷるん、と地面に着地したミオは、魔物の前に立ちはだかる。

「だ、だめだミオ! 危ない!」


 叫んでも止まらない。

 狼が牙をむき、飛びかかろうとしたその瞬間――


 ミオの体から、光る膜のようなものが広がった。

 バリアのように狼をはじき返し、「ガウッ」と鳴いた魔物は数歩後ずさる。


「……な、なにそれ」


 僕だけじゃない。見ていた村人全員が呆気に取られていた。

 ただのスライムが、魔物の攻撃を防いだのだ。


 ミオはさらに体を震わせ、小さな弾丸のように飛び出した。

 狼の鼻先に「ぺちん」とぶつかると、魔物は怯んで走り去っていった。


 静まり返る村。

 誰もが信じられないという顔で、僕とミオを見つめていた。


「……すごい」

 子どもがぽつりと呟いた。

 その声をきっかけに、村人たちが口々に叫ぶ。


「スライムが魔獣を追い払ったぞ!」

「やっぱりあの子は特別なテイマーだ!」


 歓声が上がり、僕は混乱した。

 僕はテイマーなんかじゃない。ただ、ミオと一緒にいるだけだ。

 でも、胸の奥が熱くなる。


「ミオ……ありがとう」

「ムキュッ!」


 胸元に飛び込んできた小さな体は、いつもよりあたたかく感じた。

 そのとき、はっきりと気づいた。

 ――ミオはただのスライムじゃない。

 僕にとって、運命の相棒なんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る