台所ASMR:耳のすぐそばで、おにぎり握ります
mynameis愛
第1話
SFX:〈玄関の鍵がそっと回る音。カチャリ〉
結(ささやき・中距離):おかえり、泰知。今日は——2025年8月25日、月曜日、19時32分。場所は私の台所、小金井の南口から歩いて七分、二階の角部屋だよ。
結(近接・右耳):右側、失礼しまーす……(ふっと息)お疲れさま。
SFX:〈布トートが床に置かれる小さな音〉
結(左耳):カバン、ここでいい? うん、ありがと。じゃあ、今夜は「耳もとごはん」。あなたのための、左右対応キッチン開店しまーす。
SFX:〈換気扇が弱で回り始める。ふわりと低い風音〉
結(中距離):メニューは三品。おにぎり、なめこの味噌汁、きゅうりの浅漬け。理由? 音がかわいいから。方法? ぜーんぶ耳のそば、あるいは耳から離したり近づけたり、距離と温度と匂いで癒す。ね、ワクワクするでしょ。
SFX:〈水道の蛇口が細く開く。さらさら〉
結(右耳・囁き):まずはお米を研ぐね。右から入って、左へ流すよ。
SFX:〈ボウルに水が溜まり、米が泳ぐ音。シャララ、こすれる〉
結(左耳):手、冷たい……でもしゃっきりする音。
SFX:〈米を研ぐリズム“くるっ、くるっ、シャッ”×3〉
結(中距離):泰知、今日も誰にでも優しかった?(小さく笑って)うん、顔見ればわかる。ありがとうって、何度も言われたでしょ。あなたがそうやって周りをほぐして回るから、私もまねして音でほぐすの。
SFX:〈水を捨てる。トトトト〉
結(右耳):最後のすすぎ……ひと口分だけ音を残して、止めるね。
SFX:〈水滴が一粒、シンクに落ちる“ピチャン”〉
結(中距離):炊飯器にセットっと……開始。
SFX:〈炊飯器のスタート音“ピッ、ピッ”ささやか〉
結(右耳・微笑):炊きあがりは19時58分予定。だから次は浅漬け、いくよ。
SFX:〈まな板を置く“コト”。包丁の背が木に触れる“コソ”〉
結(左耳):きゅうり、一本目。とん、とん、とん。
SFX:〈規則的な包丁音。とん、とん、とん〉
結(右耳):今日のきゅうり、石神井の八百屋さんで。なんでそこ? うふふ、帰り道に亮介が「うちの庭のより、そっちの方がシャクシャク」って無表情で差し出してきたから。彼、感謝を言葉にするの苦手だけど、こういう差し入れは天才。
SFX:〈塩をつまむ“サラリ”〉
結(近接・両耳交互):お塩をね、右耳で三つまみ——さらっ、さらっ、さらっ。左耳でひとつまみ——さらっ。
結(中距離):ビニール袋に入れて、空気抜いて、もみもみ。
SFX:〈ビニールの柔らかい擦過音。もみ、もみ、もみ〉
結(左耳):このシャカシャカ好き? 私も。あ、今の笑い、可愛い。
SFX:〈小鍋がコンロに置かれる“コト”。水を注ぐ〉
結(右耳):お味噌汁は、なめこ。ぬるぬる音、控えめにね。
SFX:〈なめこが袋から落ちる“ぽとぽと”。湯がふつふつと温まっていく〉
結(左耳・そっと):温度が上がる音って、なんで安心するんだろ。たぶん、体の水分が喜ぶから。科学っぽいこと言ったけど、要するに「ほっとする」ってこと。
SFX:〈お玉でゆっくり混ぜる“くるり、くるり”〉
結(右耳):あ、そうだ。今日、あなたに言いたかったこと——ありがとね。朝のメッセージ、「焦らなくていいよ」って。あれで私、午後の録音仕上げられた。
SFX:〈味噌を溶く。とろり〉
結(両耳・交互):味噌は右から左へ、濃度の波をどうぞ……とろ、り……とろ、り。
SFX:〈インターホンが遠くで“ピンポーン”〉
結(ひそ声・中距離):……だれだろ。
SFX:〈スリッパ音“ぺた、ぺた”離れていく。ドア開閉〉
亮介(遠距離・小声):……グミ。
結(遠距離・小声):え、なんでグミ?
亮介(遠距離・小声):……有紗さんが、「糖分は正義」って。
結(小声):ありがとう。あとでお礼言っといて。
SFX:〈ドアが閉まる。戻ってくるスリッパ音〉
結(右耳・くすくす):ね、彼ってほんと勝ち負けどうでもいい人。差し入れの選択に勝敗ないって顔。そこが好き。
SFX:〈炊飯器が“シュー”と蒸気を上げる。軽い沸騰音〉
結(左耳・ささやき):もうすぐ炊ける。じゃあ、その前に……肩、失礼。
SFX:〈肩にタオルを掛ける“ふわ”。指の腹でゆっくり揉む“こり、こり”〉
結(右耳):今日の凝り、右の首元に集まってる。多分、電車で窓側に立って、体ちょっとねじってスマホ持ってた。違う? えへへ、当たった。
SFX:〈息をそっと吹きかける“ふぅ……”〉
結(左耳):息、冷たくない? ちょっとだけ、あたためるね。
SFX:〈炊飯器の完了音“ピピッ”〉
結(中距離):きた。じゃあ握るよ、音の一皿目。
SFX:〈蓋が開く“パコ”。蒸気が“ほわぁ”〉
結(右耳・嬉しさ):見えないけど、想像して——白い湯気が耳の後ろで輪になってる。
SFX:〈しゃもじで米を切る“シャッ、シャッ”。塩水に軽く指先をつける“ぴちゃ”〉
結(左耳):三角——右へ返して、左へ押して、天井へちょっと持ち上げて……完成。
SFX:〈海苔をはがす“ぺりっ”。包む“ぱり、ぱり”〉
結(近接・右耳):はい、どうぞ。右耳のそばで「いただきます」。
SFX:〈噛む音は控えめ。海苔がふわっと鳴る〉
結(左耳):ね、音でも「おいしい」ってわかるでしょ。
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