第2話
放課後。
鈴華は生徒会の仕事を終え、静かな廊下を歩いていた。
先ほどの出来事が、まだ心に引っかかっている。
九条薫子——。
助けた時の彼女の表情、冷たい手の感触、そしてあの微笑み。
妙に印象に残っていた。
「——桐嶋さん」
不意に名前を呼ばれ、鈴華は足を止めた。
振り向くと、そこには薫子が立っていた。
「九条さん……?」
彼女は静かに微笑むと、一歩近づいてくる。
「今日のこと、お礼を言いたくて」
「別に気にしなくていいよ。私はただ——」
「いいえ」
薫子はそっと首を振った。
そして、まるで何かを確かめるように、じっと鈴華を見つめる。
「助けていただいたのは事実ですわ。……あなたは、本当に優しいのね」
その声音には、どこか熱がこもっていた。
鈴華はなんとなく、視線を外す。
「……それより、あなたは大丈夫?」
「ええ、大丈夫ですわ。でも……」
薫子は一瞬、唇を噛んだ。
「本当は、少し怖かったの。もし、あなたが来てくださらなかったら……って」
不安げな表情。
今朝の冷たい雰囲気とは違う、儚げな印象。
鈴華は思わず、その細い肩に手を添えた。
「大丈夫。もうあんなことは起こらない。」
「……ふふ、本当に素敵な方」
薫子は鈴華の手をそっと握り返す。
その指先が、名残惜しげに鈴華の手をなぞるように動いた。
「桐嶋さん……また私のこと守ってくださいね?」
「もちろん、約束する。」
「ふふっ」
薫子はくすりと微笑み、歩き去っていった。
廊下の奥に消えていく彼女の後ろ姿を、鈴華はしばらく見つめていた。
なぜだろう——。
どこか引っかかるものを感じるのに、薫子の言葉を思い返すたびに胸がざわつく。
その違和感の正体を、まだ鈴華は知らなかった。
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