君の世界のカウントダウン
@MYHOUSE
第1話 初めての東京
「えっと、長野から引っ越してきました。天野柊(あまのしゅう)です。よろしくお願いします。」ばっと頭を下げた。初めての東京、初めての空間には少し独特な雰囲気が漂う。昔から引っ越しが多く何度も転校してきた私だが、そのたびに毎回訪れるこのちょっと不安で静かな空間に慣れることはなかった。「じゃあ天野さんはもともとの飯田の席に入れておいたから、」と言われてクラスを恐る恐る見渡すと、ひとつだけ空いている席が目に入った。窓側から二列目、一番うしろのいわゆる「あたり席」だ。私は新しいクラスメイトの視線を浴びながら一番うしろの席にたどり着き、腰掛けると一気に詰まっていた息が吐き出された。そして右隣を見るとひとつ結びの大人しそうで優しそうな女の子がこちらをそっと見ていた。「よ、よろしくね。」とその子はちょっと恥ずかしそうに言ってくれた。でも、その一言がかなり自分にとってはありがたかった。「よろしくね、あの、名前聞いてもいいかな?」するとその子は「高宮夢っていいます。えっと、柊ちゃんって呼んで良い?」と少しわくわくした表情を見せてくれた。「うん、じゃあ夢ちゃんでいいかな」と私も同じように聞き返すと、笑顔で頷いてくれた。もしかしたら、この学校はすごくすごく「あたり」なのかもしれない。少なくとも、ひとりぼっちになった前回の学校よりは。そして新しい友達もできたので、次は反対の窓側のクラスメイトをちらりと見てみた。その子は先程からずっと窓の外をボーッと見ている。校庭を見ているのだろうか、それとも何かほかのことでも考えているのだろうか。顔が見えない。髪の毛が短髪で、ピアスをいくつかしている。きっとヤンキーか何かの男の子なんだろうと思った私は一応声をかけておかないといけない気がして、おそるおそる「よろしくね、」と声をかけてみた。しかし、その子はピクリとも動かない。完全に無視をされてしまった。すると夢ちゃんがちょんちょんと私の方をつつき、そっと小さな声で耳打ちをした。「その子はずっとこうだから、あんまり気にしないほうが良いよ」と。私も、だから隣の人にも学校に行きたくなくなるくらい嫌われてんだろうなと勝手に心のなかで反抗し、イライラする心をとどめておいた。そして、私が初めてその子が口を開いたのを見たのはしばらくたった3時間目のことだった。
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