第5話 階級
ベッドに横になりながらリタはいつ来るかな? と思っていた矢先、戸口から香ばしい匂いが流れ込んできた。鍋を片手にしたリタが、軽やかな足取りで入ってくる。
「また食べるのを忘れてるんじゃないかと思ってね。温かいうちにどうぞ」
テーブルに置かれたスープからは、湯気がふわりと立ちのぼっている。ありがたく椀を手にとり、一口すすると、疲れた身体に染み渡るようだった。
「ごちそうさま。あの、リタさん、魔法のこと聞いてもいいですか?」
「え、何?」
「魔力って、鍛えれば増えるんですか?」
スプーンを置いて、リタは少し考えるように目を細めた。
「ふふ。真面目ねえ、ロイ。そうね、使ってれば、そのうち増えるわよ」
うぐ。思ったより漠然とした答えが返ってきた。子どもだと思って、優しく言っているのだろうか? 少し掘り下げてみる。
「どのくらい使ってればいいの?」
「うーん、大人になる頃には?」
駄目だ。これ、わかってないやつだ。
「それじゃあ、どのくらいまで増えるの?」
「そこは努力次第かな。あのね、魔法の強さは、大きく7つの段階に分けられているの」
と、リタは階級について教えてくれた。
1.
そよ風のように、かすかな現象を起こせる程度。それでも、火種や飲み水、石礫など、風以外は何かと使える。
2.弱級
日常の生活が便利になる。属性によって便利さは異なるが、あると無しで明らかに快適さが変わる。
3.中級
職業として成り立つレベル。魔獣との戦いでも通用する。
4.強級
その道の実力者といえる。村を支えられるほどの実用魔法。
「ここまでが、だいたい一般人の限界ね。ちなみに、私の階級と属性は、
「リタさん、風属性あるんだ?」
「あら、言ってなかったっけ? 水ばっかり使ってるからかな」
「弱風までは教えてあげられるわよ。ほんとは、親がやるもんだけどね……」
そう言って、リタは少し悲しそうな表情を浮かべた。
「いえ、気にしないでください。リタさんの風、見せてもらえますか?」
「え? 見たことあるでしょ? ま、いっか。まずは、弱風ね」
リタが俺に右手を向け「ウィンド」唱えると、俺の髪が、ふわっとなびいた。
「あなたもできると思うけど、今のが弱風」
「『ウィンド』って言うんですか?」
「そそ、詠唱はなんでもいいんだけど、この村では『ウィンド』って言うわ」
なるほど。俺は、初風、環風って、名付けたけど、風が動くイメージにマナを乗せると詠唱しなくても発動するもんな。
「詠唱は、人前で魔法を使うとき、びっくりさせないようにするためのマナーだから、ロイも気をつけてね」
そう言うことか。
いきなり風が吹くくらいならいいけど、火とか石が飛び出したら怖いもんな。魔法社会で生じる自然な社会のしきたりってとこだな。すると、詠唱がなんでもいいってのは、きっと方言みたいに地方で違うんだろうな。
「次は、弱風よ。ちょっとそこに立ってみて」
お、弱級魔法きた。何が飛び出すか楽しみだ。俺は、リタに言われる通り立ち上がって部屋の壁際に立った。
「押すわよ。ブロー!」
ぶわっと全身に風圧を受け、壁に押し付けられた。これは、いきなりやられたら驚くな。
「『ブロー』は虫とか追い払うのに便利よ。あと、人にかけるときは、宣言してからじゃないとだめだからね」
「うん、わかった」
「じゃ、もう一つ。こっちのは、使えるようになったら役に立つわよ。払え、クリーン!」
体の周りに風が渦巻いた。小さな竜巻? 髪の毛についていたほこりや、服についていた砂が舞い落ちた。
「すごい!」
「そうよ、弱水の『ウォッシュ』と弱風の『クリーン』が両方使えると、体を洗うのにすごく便利」
そこで、リタは少し真顔になった。
「さて、この先は、ほんの一握りのひとが、たどり着ける段階ね」
5.師級(しきゅう)
魔法を体系立てて理解した者。人に教えられるほどの技術を持つ。
6.闘級
魔獣討伐の第一線で戦うことができる。一人で軍隊に匹敵するとも言われる。
ロイは思わず手を止める。
「人間離れしてるね」
「そうね。そして、最後に」
7.覇級(はきゅう)。
一人でどんな戦局でもひっくり返す力を持つ。しかも自分だけの魔法――オリジナルスペルを編み出した者。
「オリジナルスペル!?」
やべ、もしかして俺、知識チートで覇級になっちゃうか? リタはそこで口元をほころばせ、冗談めかして言った。
「だから、ロイ。ご飯を抜いて倒れるくらいなら、まずは微級をきちんと操れるようになりなさい。覇級を夢見るのは、それからでいいわよ」
「……はは、確かに」
パンをほおばってスープを飲み干しながら、俺は心の中でつぶやいた。
――微級から覇級へか。
今の自分は、そよ風レベル。最下層にいることは疑いようもない。だが、道筋が見えた気がした。
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