第4話 数値化
「次は、数値化だな」
ただ風を起こせる、空気を操れる、それだけじゃ意味がない。どこまで届くのか、どれほどの力を持っているのか。感覚ではなく、そういうのは、きちんと測っておかないといけない。
測定方法を考えて、俺は少し悩んだ。ろうそくの炎で試すのもいいが、あれは揺れ方の判断が主観的になりすぎる。もっと視覚的に、誰が見ても「風の強さ」がわかるものがいい。
……そういえば。
子供のころによく作ったものがある。前世の記憶から、あれを思い出した。
「折り紙の風車が使えるか」
さっそく机の上の紙を取り、四角に切りそろえる。角を対角線まで折り込み、真ん中に穴をあける。細い木の棒に通して、針金代わりに細工した釘を刺せば――くるくると回転する仕掛けは完成した。即席だが、十分役に立つだろう。
庭に出て、風車を胸の高さに掲げる。
俺は深く息を吸い込み、意識を集中させて囁いた。
「……そよ風」
空気がわずかに震え、頬をなでるような風が起こる。風車が回転した。小さいけれど、確かに風を受けている証拠だ。
「名前もつけたいところだな」
そよ風では、これは日常の風と区別できない。
魔法は、ただの自然現象とは違う。呼び名ひとつで、扱うときの気持ちも変わってくる。
前世でゲームをやっていたころを思い出す。
「ウィンドカッター」とか「エアブラスト」とか、俺のはそんな派手なもんじゃない。カッターなんて付けたら、名前負けする。
「じゃあ、撫風?」
声に出してみる。響きは悪くないが、なんか違う。
自分で勝手に呼ぶならそれでもいいが、将来的に人と話すときに通じなかったら困る。
魔術の系統には、きっと正式な段階があるはずだ。
始まり、入門、一歩目……そういうニュアンス。
「そうだな。
口にしてみて、しっくりと胸に収まった。
最初の一歩。
情けないほど弱いけれど、確かに魔法として風を動かした。
その象徴としては、これ以上ない名前だ。
俺は風車に向かってもう一度、小さく手をかざす。
「初風」
声とともに、やわらかな風が生まれ、風車が軽快カラカラと回った。
「よし、決まりだ」
ちっぽけな魔法でも、名前を得た瞬間に不思議と誇らしくなる。
ここから先の実験記録には、この呼び名を残していこう。
俺は風車を棒ごと地面に突き立て、そこから一歩ずつ後ろへ下がりながら同じ魔法を繰り返す。
「初風」
二歩、三歩、五歩……、風車は相変わらず回っている。
十歩……二十歩……少し回転が鈍った気がした。
「ふむ。だいたい10メートルで効きが弱まる、ってところか」
さらに数歩下がり、もう少しだけ試してみると、風車はぴくりとも動かなかった。
ざっと飛距離を測ってみると風の効果が無くなるのは、およそ12メートルだった。
「二割ほど余韻があるわけだな」
俺は風車を回収しながら、小さく息を吐いた。
やはり「初風」という呼び方にふさわしい程度だ。威力というより、ただの送風機。けれど、こうして測っておけば次に何を確かめるべきか見えてくる。
飛距離の目安はついた。だが、直線だけ測っても意味がない。
風は空気の流れ。広がり方を知らなければ、実戦では役に立たない。
「範囲も測ってみるか」
俺はそう呟き、再び机に戻って紙を切り始めた。さっき作った風車と同じ要領で、今度は数を増やす。四角い紙を折って、釘を通し、木の棒に固定する。慣れてしまえば、さほど時間はかからない。
「よし、十個で十分だな」
小さな風車が庭に並べていく。自分の家の裏庭に、妙な実験装置が立ち並ぶ光景は、どこか滑稽だ。もし叔母のリタが見たら、首をかしげるかもしれない。
けれど、これも必要なことだ。前世での俺の常識に従えば、何かを理解するには「測定」と「データ」が不可欠だ。感覚だけで満足してはならない。
俺は庭の中心に立ち、風車が円を描くように距離を揃えて配置した様子を見渡した。
「じゃあ、いくぞ、初……」
いや、範囲魔法だから別な分類にしておこう。
「初風あらため、
呼吸を整え、マナを意識する。すると、柔らかな風が全方向に広がっていくのを感じた。
――カラカラカラッ
一部の風車が一斉に回り出した。まるで合図を受け取ったかのように同調している。
俺は思わず口元がゆるむ。
「……なるほどな。範囲は、おおよそ半径2メートルくらいか。ついでに、風が届くまでのラグなし」
2メートルの距離を越えると、外側に置いた風車はほとんど動いていない。ちょうど、円の境界の内と外で明確な差があった。
■ 威力 風車 数回転
■ 飛距離 10メートル
■ 範囲 半径5メートル
しかし、こうして数字に置き換えてみると、俺の魔法がどれほど「小さい」か、はっきり見えてしまう。
俺は腰に手を当て、庭の中央で息を吐いた。
魔獣を倒すなんて、とても想像できない。枝を揺らすほどの力すらない。けれど、ただのそよ風に見えても、測ってみると少しずつ可能性の輪郭が浮かんでくる。
次は、実戦に向けた空気中の酸素だけの操作を確認したいところだが、もう魔力切れっぽいので、休憩することにした。
ちなみに、魔力切れの感覚というのは、走り続けてもう足が上がらないって感じと似ている。マナを動かし続けると、身体に流れるマナをもう動かせないって感じ。
そして、ちょっと休むとまた走れるみたいに、休むとマナは動かせるようになるし、ここ数日は筋肉痛みたいに、身体の中のマナ回路が痺れるように痛い。
トレーニングすれば、筋力のように魔力も鍛えられるのだろうか?
あとで、リタに聞いてみなければ。
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