第29話
「杏!あんたYahooニュースに載ってたじゃん!しかも玉木青イケメンすぎ!超タイプ!てか『海辺から』のモデルって、あんただったの?なによそれ!」
週明け、大学の学食で昼を食べていると、爽ちゃんが矢継ぎ早にまくしたててきた。
謎の人気作家の正体がイケメンだったこと。そして、その作品の装丁を手がけたのが私みたいなただの美大生で、しかもモデルまで私だったこと。どうやらその組み合わせがネットで騒ぎになっているらしい。
「完全に彼女扱いされてるよ、Twitterで」
「はあ……」ため息しか出ない。
だけど本当に苦しいのは、ネットの反応じゃなかった。あの日の隼の言葉が、まだ胸に刺さったままだったから。
「ちょっと!あんた、ため息ばっか!何かあった?」
「隼と……喧嘩した」
「え、隼ってあのクール系の子?なんでよ」
「私が玉木青の装丁やれたのは、狙われてたからだって。女を使って仕事取ったんじゃないかって……」
「うわ、それはひどい」
爽ちゃんは眉をひそめたけど、すぐに目を丸くした。
「でも別にそういうんじゃないんでしょ?玉木青とは」
「……告白はされた」
「はああ!?なんでそれ先に言わないのよ!」
学食で声が響く。周りの視線を浴びて、私は小さくなった。
「で、付き合ってんの?!」
「つ、付き合ってない。まだ返事してない」
「はあああ!?迷う必要ある?人気作家でイケメンで金持ちで!しかも大人で紳士で!理想じゃん!」
「……うん。理想の人だと思う」
「じゃあ答え出てるじゃん。隼みたいに拗ねて皮肉言うガキより、玉木青でしょ?」
「……まあ、そうだよね」
頭ではそう思う。これほどの人、私にはもったいないくらいの人だ。
でも胸の奥では、あの言葉がまだ疼いていた。
どんな時も私を肯定して支えてくれた隼にあんなふうに突き放されたのが悲しくて。
隼とはあの日以来、顔を合わせていない。
毎日欠かさずしていたLINEも止まったまま。
このまま離れていくのかな。
二十歳の誕生日に、隼から卒業して大人になれってことなんだろうか。
寂しいけど、それが現実なのかもしれない。
考えれば考えるほど、青さんと付き合うことが正しい道な気がした。
でももしかしたらそれは、隼から突き放されて悲しいことからの逃げのような気もする。
自分の弱さが情けない。だけど、隼のことを考えると、どうしても悲しくてどうしようもなくなるのだ。
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