番外編 勇者になったクラスの奴等とは別れて勝手に異世界を楽しみます。ニュイの物語。

@saionjiyamato

番外編 ニュイとコウスケ


 私の名前はニュイ。猫族の八歳元奴隷。

 五歳で家族揃って奴隷となった私は毎日辛い思いをしながら日々を生きて来た。

 そんな変わらぬ日々の中転機が起こった。

 父さんと母さんが荷運び作業の隙を見て私を逃してくれた。あの時はただ逃げて生き延びる事でがむしゃらだった。教会の炊き出しでは同じくらいの歳の奴等と取り合いをして喧嘩したりもした生きる為に。そんな時海辺のベンチであいつと出会ったんだ。一人ベンチに座りながら呑気に美味そうな肉のサンドを食ってやがって、私が腹を鳴らしながら陰から覗き見ていると無愛想な顔のままその食べ掛けの肉サンドを差し出して来たんだ。見た事無い黒髪で前髪が目に掛かってるから何処を見てるのかもよく分からない様な変な奴。でも私は差し出された肉サンドを何の警戒も無く素直に受け取る事が出来たんだ。不思議な感覚だった。人間は嫌いだ。私達家族を奴隷堕ちさせてこき使って。その筈だったのにそいつは何故か安全な気がしたんだ。

 「お前は路上生活をしているのか?」

 「うん。私奴隷で逃げて来たから。」

 私がそう言って首についた奴隷の紋章を見せるとそいつは何かブツブツ言いながら本を取り出して手をかざして来た。そしたら何かが砕け散る様な音がして首元がスッと軽くなったんだ。

 「案外解呪出来るもんなんだな。お前はもう奴隷じゃない。これからは好きに自由に生きていけるぞ。まあ違法なのかも知れないけどな。そのまま奴隷でいるよりは遥かにマシだろ。」

 「もう奴隷じゃ無いのか?え?」

 私が訳もわからずに混乱しているとそいつは口元だけニコリとして頷いたんだ。その時の表情がまるで父さんがいつも私に向けてくれた笑顔の様で何だが心が落ち着いた。あ、こいつは信じて良い奴なんだなって安心したんだ。

 そいつはコウスケって名前だった。

 異世界人で勇者召喚されてこの世界にやって来たんだって。でも自分は勇者では無いとか言ってる変な奴だ。奴隷の紋章を解ける奴なんて勇者くらいしかいやしないだろ!

 そんなコウスケは私に生きる術を持てって言って冒険者登録をさせてくれて、ご親切に魔物の狩り方まで教えてくれた。

 本当無愛想で何考えてるか分からない奴なんだ。何かよく一人でブツブツ言ってるし。でも嫌いじゃなかった。コウスケと一緒に居ると楽しかったんだ。今までずっと辛かった事が嘘かの様に。

 そして私はコウスケと共に街を出て南へ向かう事にした。私の生まれた国、バルガストル共和国。獣族の虐げられない国自由の国。コウスケも人間の国じゃなくてそんな色んな種族皆んなが仲良く暮らす国が良いって言っててさ。私は幼い頃の記憶を辿りながらあの国の話をしてやったんだ。凄く良い所なんだぞって!そしたらコウスケは楽しそうに聞いてくれていた。早く行ってみたいなってさ。

 南へ向かう中獣族は宿には泊まる事が出来ないから野宿をしたんだけど、私の知ってる野宿じゃ無かった。とにかく快適なんだよ!ビックリする程に!

 コウスケは趣味がそろきゃんぷとか言うやつらしくて元の世界にいる頃から良く一人で野営をしていたらしい。家があるのにだぞ?変な奴だよな。見た事ないグリルを使って肉を焼いてみせたらめちゃく美味くて驚いたんだ。こんなに美味い肉は食べた事が無くって。

 「何で自分の家があるのにわざわざ山の中にそのそろきゃんぷとか言う物をしに行くんだよ。野営なんて好き好んでするもんじゃないだろ?」

 「俺が居た世界ではそう言う事を楽しむのが趣味って言ったんだよ。野営を遊びに変えるんだ。キャンプブームのお陰でソロで楽しめるキャンプ場も結構多くてな。一人山に入って焚き火を焚べるのが良いんだよ。住んでた所が都会だったから余計にな。」

 「ふーん。異世界って変なとこなんだな。」

 そうしてコウスケからは色々な話を聞いた。私の知らない世界の話。空を飛ぶ乗り物に乗って違う大陸に行けたりもするんだって。全然想像がつかなかったんだけど、コウスケは私から昔絵本で見たエンシェントドラゴンの話を聞いて何故か大喜びしてたんだ。古代竜は男のロマンだとか言って。

 本当に変な奴なんだけどとても良い奴。

 悪い奴等に容赦無いんだコウスケって。

 訳の分からない魔法を使って平気で足の骨とか折っちゃうし拷問だって笑顔でやる様な奴だ。

 でも悪い奴等にだけなんだ。私はそんなコウスケを見てて何だが正義の味方みたいな気がしてさ。気持ちが良かった。

 確かに父さんと母さんの事は心配だけど、二人は私が外で生き延びて行く事を望んでくれている。だから私は強くなるんだ。一人で生きていく為に。コウスケは私にその術を教えてくれる。いつか私が立派な冒険者になって独り立ちするその日を楽しみにしてるんだって言いながら。


 こうして私とコウスケの冒険は始まったんだ。

 「ん?どうした?何か楽しそうな顔して。」

 「いいや別に!ちょっと色々思い出してさ!」


 私とコウスケはそんな会話をしながら南へと向かって行く。故郷を目指して。


 


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