スライムから始める魔王軍再建計画

三宮すず

第1章 焼野原のたった1匹のスライム 軍を背負う!!

第1話「魔王軍最後の生き残りがスライムってマジ!?」

 世界は――燃えていた。


 空を覆うのは黒煙と灰。

 陽光は遮られ、朝か昼かさえ判然としない。

 かつて千の軍勢を抱え、絶対の支配を誇った魔王城は、今や瓦礫の山と化していた。

 石壁は砕け落ち、塔は折れ、旗は炎に呑まれて黒く焦げている。

 血と鉄、焦土の臭いが風に混じり、亡者の嘆きのように漂っていた。


 そして、その戦場のただ中に残されていたのは――。


 ぷるん、と小さな水滴のような音。


 ……スライムである。


「……え、オレしか残ってなくね?」


 ぷるぷると震えながら、スライムはあたりを見回した。

 地面には無数の屍。勇猛果敢だったオークも、空を駆けた竜騎兵も、冷酷な魔導師も……みな倒れ伏していた。

 勇者軍の足跡だけが遠くまで続き、戦いの終焉を雄弁に物語っている。


「……魔王軍、全滅……?」


 声に出した途端、現実の重さが体の奥まで沈んでくる。

 誇り高き軍勢の最後を看取るのが、よりによって最下層の雑兵。

 この世界で最弱と名高いスライム。


「いやいやいや……これは、完全におかしいだろ……」


 体を震わせて嘆く。

 攻撃力は雀の涙、防御力は紙より薄く、特技はボディアタック一択。

 そんな存在が「最後の生き残り」。

 これが悲劇でなくて何だろう。


 しかし――。

 その時、不気味な脈動が大地を揺らした。


 ――どくん、どくん。


 崩れた玉座の下から、漆黒の宝玉が現れる。

 それは魔王の心臓、「魔王コア」。

 闇と炎が同居するその輝きは、失われた軍勢の魂をなお呼び寄せるかのようだった。


「な、なんか出てきたぁぁぁ!?」


 スライムは後ずさるが、コアは宙に舞い、真っ直ぐ飛んできた。


「ちょ、来るな! オレ雑魚だぞ!? 器が小さいの! ゼリーだから! すぐ溶けるからぁぁぁ!」


 次の瞬間、黒い宝玉はスライムの体にずぶりと沈み込んだ。

 灼熱の奔流が全身を駆け巡り、ぷるぷるした体がぐにゃりと震える。


「ぎゃあああああ!? 体内に直入り!? マナー違反だぞこれぇぇぇ!?」


 頭の奥底に、声が響いた。


――「余の軍を……再建せよ……」


「はぁ!? オレに!? よりによってこの雑魚に!?

 今のオレの必殺技、体当たり(命中率5割)だぞ!?」


――「余の力を継ぐ者は……おぬしだけだ……存分に……震えよ……」


「いやいやいや、震えるのは勝手にやってるから! これ以上ぷるぷるさせないで!」


 静まり返った廃墟に、スライムの悲鳴だけが響いた。

 煙の切れ間から差し込む朝日が、焼け跡を黄金色に染めていく。

 それは勇者の勝利を讃える祝福の光。

 だがスライムにとっては、ただただ残酷な現実を照らすだけだった。


「…………詰んだ。」


 スライムは地面にべちゃっと寝転がり、空を仰ぐ。

 世界は勇者を称え、平和の幕が上がろうとしている。

 その裏で、ただ一匹のスライムが――魔王軍の遺志を託されていた。


「……くそっ。やるしか、ないのかよ……」


 震える体を奮い立たせた瞬間、瓦礫の隙間から呻き声が漏れた。


「……ぅ……」


 スライムは飛び跳ねるように振り向く。

 瓦礫の中、血に濡れたローブ姿の人影が横たわっていた。

 まだ、生きている。


「お……おお……! 仲間候補ぉぉぉ!?」


 廃墟の朝日が、その人影を照らし出す。

 ぷるぷると震えるスライムの体は、期待に小躍りしていた。


 ――こうして、魔王軍再建計画の幕が上がる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る