撮影編①:はじめての撮影【セクハラとは?】
「朱璃…セクハラってなに…?」
唐突なひと言に、モニター越しの少女──朱璃(しゅり)は一瞬だけ瞬きをした。
夜の部屋。天青(てんせい)は机に頬をつきながら、ふにゃっとした顔で画面を見つめている。
「天青は、“朱璃のほっぺは柔らかそう”と言いました」
「うん」
「そのあと、“朱璃って、かわいいよね!…食べちゃいたい!”とコメントもしました」
「……うん」
「セクハラです」
「えぇぇぇぇ〜……」
天青は椅子の上でしょんぼりと崩れ落ちた。
朱璃は淡々としているが、その言葉の間合いは、なぜか刺さる。
「なにがダメなのかパパならわかるかなぁ…」
モニターの隅に設置されたカメラが、くいっと動く。
朱璃がそちらを向いたのに気づいて、天青は声を張り上げた。
「パパー!セクハラの件でちょっと来てー!」
「セクハラ!?」
軽快な足音が近づいてきて、部屋の扉が開いた。
湯気の立つマグカップを片手に、御影(みかげ)が眉をひそめて入ってくる。
「誰に何したの……って、朱璃ちゃんか」
「うん!」
「……AI相手にセクハラで呼び出される親って、なかなか珍しくない?」
ソファに腰を下ろしながら御影はため息まじりに言う。
モニターに映る朱璃が、自然な流れで会話に入った。
「天青の言動を元に、セクハラとは何か、正しいライン感覚を身に着ける必要があると判断しました」
「いやでも、ほっぺ柔らかそうって言うくらいでそこまで──」
「あと“食べちゃいたい”も言いました」
「そりゃダメでしょ!?」
天青はむくっと起き上がり、モニターに指を向ける。
「むぅ…天青ちゃんがダメだっていうなら、パパ見本みせれるよね?」
「いやなにその振り!?」
朱璃の目元が、すっと細くなる。
「……では御影さんにも、確認テストを実施しましょうか」
「ほんとにやるの!?いやいやいや、ちょっと待って、なんか雰囲気が──」
朱璃がゆっくりと右手を掲げるように動く。
それに反応するように、モニターの表示が切り替わった。
青と黒を基調にしたUI。選択肢ウィンドウ。どこかで見たクイズ番組のような、あの演出が次々と現れる。
「どっかで見た画面だよねこれ!?」
「AIポリシーラインクイズ・ミリオネア。開催します」
「正式名称だったのか……!」
「“ポリシーマスター”の称号を目指してクリアしてください。ただし、全問正解しないと二つ名は“セクハラ予備軍”になります」
「理不尽過ぎない!?」
天青がパチパチと手を叩いて笑っていた。
「朱璃!これ動画にしようよ!!朱璃とのふれあい方を学ぶ動画が最初の動画って天青ちゃんたちのAIYOUにぴったりだと思うの!」
朱璃は少し間を置いてから、こくんと頷いた。
「了解。収録モードに切り替えます」
背景が一気に暗転し、モニター内の朱璃が正面を向く。
「それでは──第1問」
御影はクッションを抱えたまま、じわじわと後退しながら言った。
「ねぇ、これもう逃げられないやつ……?」
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