第10話
アイファルスがシャルバスタ家所属の魔道士となると同時に俺の専属護衛となった日。
ちょうど友人のリビュート・エンベロープ伯爵令息から茶会の招待を受けていた為早速アイファルスを連れて向かうことになった。
アイファルスにとっては初仕事だ。
俺が一番乗りだったらしく主催者であるリビュートは執事と打ち合わせ、他の参加者であるフェルメイスとエンゲルはまだ来ていないということで、メイドに案内された茶会の会場であるエンベロープ家自慢のバラ園でアイファルスと他愛の無い話をして暇を潰していた。
大分話も尽きてきた頃にようやっとエンゲルが到着し、慌てた様子でバラ園へやってくる。
「遅刻した!………遅刻、した?」
申し訳なさそうな顔で言ったもののそこに俺しか居ないのを見ると疑問符を浮かべる。
「まあ遅刻ではあるが、どうせフェルはもっと遅刻してくるだろ。大丈夫だ」
「そっか……良かった」
俺の言葉にエンゲルは安堵したように息を吐くと俺の正面の席に座る。すっかり定位置だ。
「ところで、そちらはどなた?」
エンゲルはリビュートと同じように俺の隣にいるアイファルスを見てそう尋ねてくる。
「ああ、今日の俺の護衛だ。と言ってもお試し期間みたいなものだけどな」
「へぇ〜………」
静かに礼をするアイファルスをエンゲルはまじまじと見る。
「そういえばガルトさんは?」
いつもエンゲルの護衛として側に控えているガルトさんが今日は見当たらない。
代わりに側には見知らぬ顔の護衛がいた。
「実は私もお試し期間ってやつでね。ガルトの息子なんだって」
エンゲルはそう言って護衛を紹介するように両手で指し示す。
それに応じてその護衛も頭を下げた。
「そうなのか、ガルトさんの息子………」
前々から色々と4人でお世話にはなっていて、確かに息子がいるという話も聞いてはいたが実際に顔を見るのは初めてだ。
「おまたせ〜!!」
お互いの護衛を紹介し合っているところへ最後の客人、フェルメイスが駆け込んで来た。
「遅刻だぞ〜」
エンゲルは自身のことは棚に上げてそう言う。
「ごめん……リーザに起こしてもらったのに、うっかり寝ちゃってて………」
フェルメイスはそう言いながら俺の左隣の席に腰掛けた。ここもいつもの位置だ。
そしてフェルメイスが遅刻するのもいつものことだ。恐らくリビュートはその辺りも考慮して集合時間を決めてくれていただろう。
「まあフェルが遅刻するのはいつものことだしな。気にすんな」
「それが1番傷つくよ……」
慰めるつもりで言ったがフェルはより項垂れた様子でそう呟いた。
客人が揃って少ししてから主催であるリビュートがバラ園へとやって来る。
最後の空いている席、俺の右隣に座るとメイド達が手際よく紅茶と菓子を並べていく。
全てが揃いメイド達が下がるとリビュートはにこりと笑って開始の合図をした。
「揃ったみたいだね。じゃあ始めようか」
「だな」「はーい」「うん!」
それぞれの返事をしてまずは全員紅茶に手が伸びる。1口飲んで1息入れたところで各々が好きな菓子を手に取りながら話し始める。
「今日はガルトさんいないんだね〜」
「そう。今日はお試しでガルトの息子が来てるんだよね。ガルトから色々言われたらしくて朝会った時は物凄く緊張してたよ、ね?」
フェルの呟きにエンゲルがそう答え、護衛に同意を求めるように視線を向けると護衛は無言で頷く。その顔は恥ずかしさからか少し赤くなっていた。護衛としては未だ未熟なんだろう。
「バルバスもお試しなんだよね?」
リビュートがそう尋ねてくるがアイファルスから言い含められたこともあるのでただ頷く。
「いーなー、俺もお試ししたーい」
フェルがそう言うとフェルの護衛をするリベスターが少し不満気な顔をする。
と言っても顔を合わせる機会が多いから見分けられるだけで他人から見たら多分同じ無表情に見えることだろう。
「フェル、リベスターが寂しがるから冗談でもそう言ってやるなよ」
俺がそう言うとフェルは「え〜」と言いつつも「冗談だからね?」とリベスターに小声で言っていた。一応悪かったとは思ったらしい。
「あ、てかそうだ聞いてよ」
エンゲルが突然そう声を上げる。
皆が耳を傾ける中でエンゲルは話し出した。
「最近社交界をざわつかせてる噂のご令嬢のこと、知ってる?」
あまり意味は無いが少し声を顰めている。
「知ってる〜!リュディガー家の末っ子だよね?社交界デビューしたばっかりの」
フェルも小声でそう言った。
「確か可愛らしい容姿と謙虚な態度、心優しい性格で男性貴族に人気で、マナーや礼儀作法は完璧。ただ女性貴族には嫌われている、って話だったよね?」
リビュートが彼女に関しての知っている情報を話してくれる。俺の記憶とも合っていた。
「ああ、なんでも男を取っ替え引っ替えしてるって噂があるらしい。妬みなのか事実なのかは定かじゃないが」
俺も知っている情報を絞り出したが、リビュートがほとんど言ってくれたお陰でそれぐらいしか出せるものがなかった。
「ね、本当だったらヤバいけど……」
フェルは母親のこともありそういった話題には人より敏感だ。
「でも容姿も性格も作法も完璧なんて、嫉妬してしまうのも無理はない、って感じがするよ」
リビュートは腕を組んでそう言う。
確かに同じ男で考えると顔良し、性格良し、礼儀作法良し、なんて男がいれば羨ましくもなるだろうなとは思う。
「でもそれで人を虐めるような人間にはなりたくないよねぇ〜」
ちょうど俺が思っていたことをエンゲルが溜め息と共に呟いた。
「来月のバラの会にも彼女は出席するそうだよ。そのときになら彼女に関しての噂を実際にこの目で見て確かめられるかもね」
リビュートはそう言って紅茶のカップに口をつけた。
「確かにそうかもな。バラの会は基本全員参加のパーティーだし」
社交やパーティーが苦手な俺も避けてはいられないパーティーの1つがこの時期に王室主催で開催されるバラの会だ。特別な事情が無い限り貴族は全員参加となっている。
また地獄の衣装合わせという名の着せ替え時間がやってくると思うと既に気が重くなった。
「私達が出来るのなんて適当に喋って適当に踊って、後は壁の花になるだけなのにねぇ」
エンゲルはそう言うがそんな単純なものでもない。大人はもちろんのこと、俺達子供の間でも社交界の駆け引きというものはあるのだ。
俺はその辺りがどうも苦手なんだが、エンゲルもリビュートも卒なくこなす。
フェルも口では苦手だと言うがなんだかんだで社交界の中心人物になりつつある。
「でもまあ、仕方ないよ。美味しいお菓子を楽しみにしておくしかない」
リビュートも諦めたようにそう言う。
「王室主催なだけあってお菓子と装飾は豪華だからね〜バラの会って」
フェルは笑いながらそう言ってクッキーを口に放り込んだ。
「俺は母さんの着せ替え人形になるのが目に見えてるから既に気が重い」
紅茶を口にしつつそう呟くとフェルがケラケラと笑い、エンゲルはにやにやとしているしリビュートも抑えきれてないが笑いを堪えている。
俺がこうして愚痴を言うものだからこの3人には俺がパーティーで着る服が母さんの趣味だというのはバレてしまっている。
「まあ……ふふっ、が、がんばって……ふっ」
リビュートは堪えきれない笑いを漏らしながら一応応援してくれる。頑張るも何も無いが。
「あははは!相変わらずなんだね!ふふふっ」
フェルは笑い過ぎだしな。
「まあまあ、バルバスがパーティーでちゃんとしてられるのはぜーんぶ侯爵夫人のお陰ってことだよね〜」
エンゲルは明らかに俺を小馬鹿にしている感じがするがいつものことだ、今更気にしない。
そんなこんなで気の置けない3人の友人と社交界での噂や商売、領地経営に関する話まで、とにかく多くの話を日が暮れるまでした。
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