第9話

昨日は屋敷を案内するので終わってしまったから、今日からアイファルスは本格的に魔道士として仕事をすることになる。

そうなると常に屋敷内にいても一緒に食事やお茶をしたり、外出なんかもあまり出来なくなるかもしれないな。主従関係になるわけだから。

そう考えると前の方が良かった気もするが、アイファルスならその辺りはきちんと分かった上で話を受けているだろう。

アイファルスがそれで良いと決めたなら俺から何か言う必要は無い。

「おはようございます」

昨日と同じように食堂へ向かうと、こちらも昨日と同じように父さんとアイファルスが和気あいあいと談笑していた。

「ああ、おはようバルバス」

父さんがあまり興味無さそうにそう言う。

アイファルスとの話が余程面白いんだろうな。

「おはようバルバス」

アイファルスは父さんの態度に若干苦笑いしつつ挨拶を返してくれた。

「今日もここにいるんだな」

席に着きながらアイファルスにそう尋ねる。

「ああ、旦那様が是非にとお誘いして下さってね。今後も共に食事をして構わないそうだ」

アイファルスは嬉しそうな顔でそう言った。

「そうか………良かったな」

もう出来ないだろうと思っていたことが意外にもあっさりと出来ると言われ拍子抜けしつつそう返すと、アイファルスは不満気な顔をする。

「君は僕がここにいるのは気に食わないか?」

「いやいやいや!!大歓迎だ!!!」

思わず立ち上がり自分でもびっくりするぐらいの声量でそう叫ぶ。

冗談だと分かっていても焦らずにはいられないだろうこれは。嘘でも言わないで欲しいものだそんなこと。

「あははは!悪かったよ、今のは悪い冗談だった。だが今後は食事もティータイムも、外出だって嫌でも一緒だぞバルバス」

アイファルスがケラケラと笑う様に少しムッとなったものの、その後に続いた言葉に俺は唖然とすることになった。

「それって………」

「アイファルス君には、バルバス専属の護衛になってもらうことにした」

俺の呟きに父さんがそう続ける。

「言っとくけど、僕の交渉の賜物だからね」

立ち上がったまま何も言えないでいる俺にアイファルスはそう自慢気に言ってくる。

父さん相手に交渉して希望を通せるなんて、なかなか無いことだ。妥協案がいいとこなのに。

「すげぇなアイファルス………」

俺がそう呟くとアイファルスはあまり見ないドヤ顔で俺を見てきた。

「さぁ、料理が来るぞ。そろそろ座りなさい」

父さんの言葉で俺は自分が立ったままだったことを思い出し自分の席に座り直す。

というか、アイファルスが俺の護衛になるってことは今日の俺の予定に全部付いてくるってことだよな?

そうなると俺の友人に会うことになるのか。

そう思いアイファルスの方を見ると何故かにっこりと微笑まれた。

何の笑みだそれは……なんか怖いぞ。

食事が終わり父さんが流石にそろそろ仕事に戻るということでアイファルスと見送りをする。

「息子のことを頼んだよ」

「お任せを」

目の前でそんな会話をされてむず痒くなる。

「ではな」

「いってらっしゃいませ」

馬車に乗り込む父さんを見送り、今度は俺が外出の準備をする為部屋に戻る。

支度をする間はアイファルスは部屋の外にいるが、支度が終わればすぐに部屋に入ってくる。

「そんなに見張ってなくても大丈夫だぞ?」

「いや、何だろうな。なんか心配なんだよ」

あまりに離れている時間を最小限にしようとしてくるから言ったのに、アイファルスは意外にも真剣な表情でそう返してきた。

「魔法使いの勘?」

「かもな」

冗談めかして言えば、アイファルスも少し緊張が解けたのか軽く笑ってそう返した。

共に馬車に乗り込み俺の友人の屋敷へと向かう。ティーパーティーの招待状が少し前に届いていて、いつものメンバーで集まると言うから招待を受けることにしたのだ。

俺はこういう社交の場があまり得意では無いから他の人がいたらやめようかと思っていた。

「そういえばバルバス」

「ん?どうした?」

馬車の中でアイファルスがそう思い出したように声を上げる。何かあっただろうか。

「僕を護衛として紹介するのは構わないが、君の専属であることや魔道士であることは例え信頼のおける友人であろうとあまり明かさない方が良い」

アイファルスは真剣な表情でそう言ってきた。

言いたいことが、分かるような、分からないような………詳しく聞きたい。

「何か弱みになるのか?」

「いや、そうじゃない。逆に……自分で言うのも何だが、僕の存在はシャルバスタ家の強みになる。だからこそ隠しておくのが良いんだ。特に僕が魔法使いであることは絶対に隠した方が良い。これは僕個人の事情とか関係無くシャルバスタ家の為に言っている」

なるほどな。アイファルスは俺より頭が回る。

「それと専属だと言ったらもし君を狙う人間がいた場合僕が離れる瞬間を狙われることになる。僕だってずっと護衛してやれる訳でもない。それに魔道士だと言えば魔法の対策をされる可能性が高い。それで僕が完全に無力化されるかと言ったらそうじゃないがやはり魔法を使える方がいいからな。だから今日はわざわざ護衛騎士の制服を借りて帯剣までしてるんだ」

確かに、俺が準備を終えて部屋を出た時にはもうアイファルスは護衛騎士の制服を着て剣を腰に提げた姿だった。

いつもは魔法使い然としたローブを着ているのに珍しいと思ったのだ。

「分かった。アイファルスがそう言うなら俺は従うよ」

これではどっちが主人か分からなくなりそうだが、まあいいだろう。

「僕のこと信頼し過ぎじゃないかそれは……」

アイファルスは呆れたようにそう言うが俺はアイファルスに対して絶対の信頼を置いている。

最初に命を救ってもらったときからそれは一切変わらない。

そうこうしている間に屋敷に到着し、アイファルスのエスコートで馬車から降りる。

「ようこそお越し下さいました、バルバス様」

相変わらず門前ではメイドや執事が列を成し盛大に出迎えてくれる。

「凄いですね」

アイファルスは小声でそう言ってくる。

「いつもだよ。今日みたいなちょっとした集まりでもこうして歓待の意を示してくれる。まあ人使いが荒いと言ってしまえばそれまでだが」

こちらも小声で返すとアイファルスは笑いを堪え護衛の顔に戻った。

屋敷の中へ入ると今日の茶会の主催である俺の友人、リビュート・エンベロープ伯爵令息が執事と打ち合わせをしているところだった。

「……!バルバス!」

「よっ」

俺が来たことに気付いたリビュートは顔を明るくしてこちらを振り向いた。

「っと……そちらは?」

しかしアイファルスの存在に気付くと貴族らしい顔になりそう尋ねられる。

「今日の護衛だよ。お試し期間」

「なるほどね〜」

軽く会釈をするアイファルスを流し見てからリビュートはそれだけ言って近くのメイドに案内を指示した。

「会場までご案内致します」

メイドの案内で向かった先は綺麗なバラ園。

丁寧な管理がされている庭の中でもさらに徹底して美しく整えられている。

「まだ誰も来てないのか」

用意されている席は全部で4席。

その全てが空席だった。

「フェルメイス様とエンゲル様はまだお越しになっておりません」

俺の独り言が聞こえていたようでメイドがそう伝えてくれる。

まあまだ心配するような時間でもないし、フェルに至っては定期的に遅刻するのも承知の上なので気長に待つことにする。

メイドが去った後にアイファルスがそっと話しかけてくる。

「このバラ園綺麗ですね」

「だろ?エンベロープ家の宝だからな」

「何で君が自慢気なのさ」

俺の話し方にアイファルスの敬語が外れる。

全員が揃うまでそうして過ごした。

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