A#2「お父さんとの思い出」

 ずっとこの日がくることを信じて、ボクなりに調べたんだー。

 あいつがボクんちに棲みついた日のことは、わからないけど。

 屋根裏部屋の足音に気づいたときには、お父さんもお母さんも、知ってたみたいだった。

 こわがりもしなかったんだ。


 べつに、悪さするわけじゃないし、上で、ごそごそ物音を立てるぐらいだから、『ほっときなさい』って感じだった。


 でも、お父さんとお母さんは、別さ。

『首を突っこむな』ってボクに言ったくせに、自分たちは、しょっちゅう屋根裏に出入りしてたんだ。


 このことは、誰にもひみつ。

  

 ……って、ことになってたけど、へへっ

 子どもに秘密を持たせようなんてムリムリ。

 友だちが、ボクんちで遊ぼうとするからさ、

『ウチには、友だちを近づけちゃいけないことになってるんだ』

 って話したら、あいつら『どうしてだよ』ってうるさくて、つい訳をしゃべっちゃった。


 実はさ、階段をのぼったところの天井には、屋根裏につながる隠し階段が収納されてるんだ。

 折りたたみ式のだよ。

  

 四角い戸には、つねに鍵がかかってて、その鍵は、お父さんとお母さんしか持ってなかったんだ。


 お父さんなんか、仕事から帰ってくるとまっ先に屋根裏にあがって、二時間とか三時間、長いこと屋根裏から下りてこなかった。


 しかも、行くときは、食べ物とか読み物とかおもちゃとか、色んな物を抱えて、まるでピクニックに行くみたいに楽しそうにしてた。


 それって、おかしいだろ?


「二、三時間は、長いかな」

 何気なく過ぎてしまうような時間だけど、おかしな話だと陽一は苦笑する。


 ボク、お父さんに聞いたんだよ。

 そしたら、ボクの化け物図鑑を開いて、屋根裏に棲みついてるのは、『座敷わらしなんだよ』って教えてくれた。


 お兄ちゃんは、座敷わらしって知ってる?


 座敷わらしってさ、その家に居着いてる間は、幸福をもたらしてくれるけど、いなくなると途端に、その家を不幸にしちゃうんだ。


 だから、お父さんは、

『いつまでもここにいてください』って、

 お願いするためにお供え物をたくさん持って行くんだって。


 お父さんは、座敷わらしをとても大事にしてたんだ。


 ボクも会いたくて、

『見たいよ見たいよ』ってせがんだけど、座敷わらしがこわがるから『それはダメ』って、連れて行ってもくれなかった。


 ボク、自分だけ仲間はずれにされて気に入らなくてさ、悪ふざけのつもりで、お父さんの手から屋根裏部屋の金色の鍵をちょろまかしたんだ。


 ボクのニヤついた顔を見て、お父さんは慌てて、ボクの手をつかもうとしたけど、

 残念、カラぶり~。

  

 それから、ふたりで追い駆けっこして、そこらじゅう走りまわった。


『こら、待て! ふざけるな』って、

 お父さんも案外、楽しそうにボクを追いかけてくるんだ。


 お父さんとそんなふうに遊んだのは、ボクもひさしぶりだったから、楽しかったな。


 だって、お父さんは、いつも座敷わらしにかまってばかりで、ボクのことほったらかしなんだ。


 一年って長いのにさ、たった十五分の対戦ゲームにも付き合ってくれなかったんだよ?

 カードゲームのルールは、覚えようともしなかったし。


 思い起こしても、お父さんとの思い出なんて数えるほどだったな。

  

 って、お兄ちゃん。

 どうしたの? 顔が青いよ?

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