#2「おばけ退治の依頼」
「ああ、最初に話してたやつだね」
陽一は、ローテーブルの前、背もたれの骨組みが剥きだしになったソファーに腰を下ろし、前屈みの体勢になった。
「それは一体、どんなおばけなんだ?」
……しっ、待って。
あのおばけの気配を近くに感じる。
この間もさ、二階の窓から雨を眺めてたら、いきなり現れたんだ。
一瞬で消えちゃったけど……。
ねえ、おじさんの前に座っていい?
あっ、テーブルの上だから、ダメだよね。
「ハハッ、行儀が悪いなんて叱らないよ。片脚が折れたこいつを、まだテーブルと呼ぶなら別だけどね。さあ、安心して、話して」
……うん、話すよ。
おばけの正体は、もうわかってる。
あれは天邪鬼だと思うんだ。
「へえ、天邪鬼(あまのじゃく)か。面白いね。そいつはそんなにひねくれてるのか?」
しゃべったことは一度もないけど。
でも、そっくりなんだ。
化け物図鑑にも載ってた。
あ、おじさんは『うりこ姫と天邪鬼』の話、知ってる?
「おじさんて……。まあ、その話ならよく読んでもらったけど」
ボクもだよ!
おばけって、ほんとに面白いんだ。
ボクね、大人になったら全国を旅して、化け物図鑑にも載っていないおばけをぜんぶ調べようと思ってるんだ。
それで、そいつらがいた証拠をみつけて、みんながびっくりするような図鑑をつくるのが夢なんだ。
すごいだろ。
「……うん。そうだね。だけど、キミは」
……わかってる。
もう、ボクは大人になれないってこと。
ずっと夢だったのに、天邪鬼に邪魔されて、もう、最悪だよっ!
「なんて言ってあげたらいいか……胸が痛むよ」
あいつは、悪いやつだ!
きっとお得意のものまねで、
ボクのお父さんをだましたに違いないよ。
ねえ、おじさんは、
ボクんちを壊しにきたんだろ?
「……正直に言うと、そうだ。気の毒に思うけど、キミには立ち退いてもらわないと」
じゃあ、あいつを退治してよ!
じゃなきゃ、ボクは出ていかない。
大騒ぎしてやるから!
うおおおおおおおっ!
「あ、こらっ」
少年のうなり声に共鳴するように地響きがして、あたりに散らばる瓦礫やテーブルがガタガタと震え出した。
キッチンのひび割れた壁が土煙を上げて崩れる。
「──おわぁ、地震だ~!」
玄関のほうで、叫び声が上がった。
天井が崩れ落ちたのかもしれない。
「やめるんだ! ポルターガイストを悪用するんじゃない!」
すごいだろ。
「得意そうに胸を張るな。ケガ人が出たらどうする!」
少年を一喝し、陽一は急いでリビングを走りでた。
玄関でしゃがみこんでいた後藤にひたすら平謝りして弁解し、ムッとした顔で再び少年のもとに戻ってきた。
「キミみたいなのが本当の兄弟だなんて、僕は恥ずかしいよ」
えっ、おじさん。ボクの兄弟?
「あ」
しまった、口を滑らせた。陽一はどぎまぎしながらなんとか平静を装う。
「いや、そんなにおじさんに見えるかな。これでもまだ二十代なんだけど……って、その驚いた顔、もしかして、キミ、兄弟がいたことすら知らなかった?」
* * * *
読者さまへ
回答の選択肢によって、ここで、少年の世界が分岐します。
エンディングA『少年が知ってると答える世界』守り続ける毎日編
エンディングB『少年が知らないと答える世界』誰か檻から出してよ編。
あなたの選択肢によって、少年の運命が変わります。
仮に困ったことになったとしても、どちらか一方の世界が不幸に終わるということは決してありません。
ひとつの結末を見届けてから、序章に戻って、「A→B」または「B→A」のようにもう一方を読み進めると、すべての謎が明らかになる仕掛けになっております。
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