第21話 結珠奈と二人きり……のはずだったのに


 駅前のショップに到着した俺と結珠奈は、店内に入ってギターの修理を相談するリペア窓口へ。


「はい、じゃあこちらのギターの修理箇所を確認して参りますので、店内でお待ちいただいてもよろしいでしょうか」

「あ、はい。大丈夫だよな、結珠奈」

「うん」

「承知いたしました。それでは今しばらくお待ちください」


 ギターを預けると、俺たちは店内をぐるぐる見て回ることに。


 このショップは国内大手楽器メーカーの直営店であり、ギターなどを売ってるこの店内だけでなく、バンドが借りて使えるリハーサルスタジオや、別の階ではピアノ教室からバイオリン教室まで開いている。


「ねえ兄さん」

「なんだ結珠奈? まだ預けたばっかりだぞ」

「そんなせっかちじゃねえし! そうじゃなくて!」


 結珠奈は怒りながらそう言うと、俺の方を睨んでくる。


「すげー気になってたんだけどさ、朝、あたしが相談した時、めっちゃ兄さんギターのこと詳しくなかった?」

「は? 別にそんなこと」

「だってこのショップのこととか、あとギグバッグの名前とか、ギターの知識ないと出て来ないと思って」


 言われてみれば、確かに楽器と縁のない生活をしてたらこのショップのことやギターの専門用語なんて知る由もないか。


 それで違和感を覚えたなんて、結珠奈は嗅覚が鋭いな。


 まあでもこれに関しては隠すことはないし、素直に答えておくか。


「いやさ、実は前にも話したあの幼馴染が、小学校までここのバイオリン教室に通ってて。一緒に遊んだ後はいつもここまで送ってたんだけど、何回か店内に入ることもあったんだよ」


 そう、過去に春香がここの教室に通っていたこともあり、一緒に遊んだ帰り道でよく「送って?」と春香からお願いされていたので、俺はこのショップのことを知っていた。


 何度も来るたびに少し楽器に興味が湧いた当時の俺は、店内に入ってギターやベース、ドラムを見て回って興奮していたのだ。


「だからこのショップの存在も知ってたし、店内にある楽器の名前とか、ギターのケースの名前も覚えてたんだ」

「へぇ……でも、ならなんで兄さんは音楽やらなかったの?」

「それは、まあ……子どもながらに楽器の値段見たら、ワガママ言えないと思ったんだよ。ひとり親家庭だったし」


 楽器はどれも高級なものばかりで、欲しいとは言えなかった。

 それに飽きたり挫折したりしたら、さすがにあの無口な親父でも怒られると思ったから、俺は見るだけで満足していた。


「兄さんってさ……なんでそんなにお人好しなの」

「お、お人好し? こちとら1年間も引きこもって親にも迷惑かけてた人間だぞ?」

「それは結果論っつうか……まあそうかもしれないけどさ、でも兄さんはあたしらみたいな義理の兄妹にも優しいじゃん」


 別に優しいというか、俺はイマイチ3人とどう接するのが正解なのか手探りの状態になっているだけだと思うけど。


「あたしさ、男子ってもっと身勝手でいつも荒ぶってるものだと思ってた。ほら食器とかぶん投げたり」

「ヘビメタの見過ぎだ! ここは世紀末か」


 まあでも三人は菜乃花さんの方針で幼少期からお嬢様学校に通ってたんだもんな?

 それなら無理もないか。


「だから兄さんは……ちょっとだけ、少女漫画の男子っぽいっつうか」

「は? 俺が少女漫画?」


 よく分からないけど、それは褒め言葉として受け取ってよいのだろうか。


「ところで兄さんはさ……その、あたしら三人と」

「ん?」

「け、けっ——」


 結珠奈が何かを言いかけたその刹那。

 楽器コーナーの曲がり角から、急に見覚えのあ……る?


「……え、青斗?」


 俺たちと鉢合わせたのは、県立高校の制服を着た女子高生。


「は、春香……」


 そこにいたのは、幼馴染の……春香だった。

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