第47話 怪しいものがちらほらあるんだがぁ?

 大きな講堂だねぇ。ここが入学式の会場かぁ。


 四階席まであって、僕ら一般保護者は後方の二階席。三階席にいるのは、下級の貴族や豪商の類いかねぇ?


 四階席は完全に個室になった席だけで、二階、三階部分の左右にも同じような席が壁から突き出す形である。

 

 僕のいる席からだとそれでステージ上の一部が陰になってるから、一定以上の貴族向けの優先席なんだろうねぇ。


「お、あの紋章は……」


 たしか公爵家の紋章だねぇ。何度かクエストを受けた覚えがあるよ。

 その護衛で、だいたいML二百台ところかねぇ?


 やっぱり住人の強さはゲーム時代と変わらなそうだ。

 これはパワーレベリングなんてしようものなら、戦い方を知らない英雄を量産できちゃいそうだねぇ。気を付けないと。


「新入生の入場です」


 おっと、カメラカメラっと。

 魔導写真機の仕組みならフラッシュは焚かなくていいから、気にせずパシャパシャできていいねぇ。


 リリアの気配は、おや、前の方だねぇ?

 平民だし、後ろの方の席に追いやられると思ったんだけど。


 ああ、後見人が領主だから、貴族の扱いなのかもしれないねぇ?


 いたいた。あの辺が高位貴族の集団かなぁ。

 一応その中では一番後ろなのね。


 肩身が狭そうというか、ガチガチというか。

 こればかりは仕方ないかねぇ。


 まぁこれも思い出だねぇ。しっかり収めておかないと。

 パシャパシャパシャパシャっと。


 まだ暫くは続きそうだねぇ。

 えっと、この後の流れは、学長の入学許可宣言とありがたーいお話かぁ。


 日本だと国歌斉唱なんかがあるけど、そういうのは無いのね。


 じゃぁ待つ間に、さっき貰ったやつでも見てようかなぁ。

 箱を開けると、中身はただのお菓子……。


 このお菓子には何も仕掛けなしっと。

 返ったら皆で食べようか。


 とすると、仕掛けがあるのは箱そのものかなぁ。

 底はお菓子を一回取り出さないといけなくて、あのタイミングで渡すには不都合。


 じゃあ、蓋かな。


「……ほぉ」


 魔力回路の定着法を使ってるのかぁ。なるほどねぇ。

 これなら知識がある人以外気づけないしねぇ。


 しかも、気づいても一見すればただの保存魔法。ここにあってもおかしくない。


 でも、僕みたいに独自魔法が作れるような人間だと、違和感にも気がつけるわけだ。


 えっと、ここだね。独立した術式の回路。これに、こっちの導線を繋げてやると……。


「さすがだねぇ……」


 回路そのものがこの学園の立体図面に変形するっと。

 自然魔力の吸収術式はないから、時間が経ったら霧散消滅して証拠は残りませんってねぇ。


 二重の隠蔽といい、この学園で教授をしてるだけのことはあるねぇ。


 ふむふむ、やっぱりあの音楽室の横の隠し通路、上まで続いてるんだねぇ。

 同じような隠し部屋が他にもいくつか。


 街の外にまで続いてるみたいだし、やっぱり脱出用の通路かねぇ?

 怪しいには怪しんだけど……。


 うん? よく見るとこれ、学園そのものの構造も魔力回路になってるねぇ。

 動力源は、この部屋かぁ。


 そういえば魔石を溜めた部屋がこの辺りだったねぇ。

 面白いことを考えるなぁ。


 次の秘密基地を作るときは僕もやってみようかねぇ?


「――以上三百二十四名の入学を、トラエンデル・マッディアの名の下に、許可すると宣言する!」


 あらま、いつの間に。

 これ以上の考察は返ってからにしようかねぇ。


 さすがに学長の話は聞いてる振りしておかないと、怒られそうだしねぇ。

 学長だって国の有力者なはずだし。


「さて、今日この日、将来に有望の、非情に優秀な若者たちを今年もこの学園に迎えられたこと、嬉しく思う」


 あ、これ話長いヤツだねぇ。

 たまにサクッと終わらせてくれる人もいるけど、あの学長は違いそうだ。


 今もなんか脱線し始めてるしなぁ。


 まずいねぇ、欠伸が出そうだ。

 とりあえず写真でも撮って眠気を紛らわせようかねぇ。


「うん?」


 あの学長、何かに呪われてないかい?

 遠くてよく見えないけど、そんな感じの魔力光があったような。


 ゲーム時代はただのデバフエフェクトだったけど、それもちゃんと再現されてるだろうしなぁ。


 いやまぁ、学長の立場だったらどこかの誰かに呪われててもおかしくないかぁ。


 それに今みたいな一瞬だけちらっとってエフェクトだったら、呪いの術者が相当弱ってるか、そもそもが弱い呪いかでしょうし、命に関わるようなものじゃぁないと思うんだよねぇ。


 うん、学長自身を気にする必要はなさそうだねぇ。


 ただ、呪いをかけたのが捉えられた神獣だったりすると、話は別なんだけど。


 なんて考えてる間に学長の話が終わっちゃったねぇ。何の話をしてたのやら。

 次は来賓の祝辞、であれがその来賓の領主。


 顔はよく見えないけど、少なくとも魔術士から派生するアドバンスジョブを一つは極めてそうだねぇ?

 領主の身でそれはなかなかの才能なんじゃないかい?


 リリアを見いだせたのも納得だねぇ。

 話が短かったところもポイントが高い。


 式も終わりが近づいてるみたいだし、もう少し周りの貴族を観察してみようかねぇ。

 リリアの写真ももう五十枚くらい撮っておかないと。


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