第32話 すごく学生の街なんだがぁ?

「――ふぅ、なかなか美味しかったねぇ」

「ですね! 私、あんなご飯初めて食べました!」


 あー、まあ、リリアにはお昼ご飯とおやつくらいしかご馳走したことなかったらからねぇ。夜は近いものも作ってたんだけど。


 しかし、さすがは学生の街だねぇ。量が多い多い。

 フィアたちがいなかったらいくらか残しちゃってたよ。


 値段もそこそこしたけど、学割がかなり効くみたいだし、僕がいない時でも安心かなぁ。

 あれ、そもそも寮でご飯出るんだっけ?


「次は服を見に行くんでしたね」

「そうそう。入学祝いもかねてねぇ」


 女の子の事情は分からないけど、同級生の中で浮いちゃうと大変だからねぇ。無意味にはぶられてもいけないし。

 なんかけっこう名のある学校みたいだから、礼節的にもちゃんとした方がいいよねぇ。TPOだよTPO。


 その辺はまぁ、あまり言うと今の格好を否定することになるから難しいけどねぇ。

 まぁ、普段は制服で過ごすだろうし、その辺の感覚も少しずつ身に着けてくれたらいいかなぁ?


「そういえば、制服は学校、じゃなくて学園の方でもらうんだったっけ?」

「そう、ですね。そう書いてあります」


 ふむ。じゃあ気にしなくていいか。

 到着したら入学式までに来るようにって書いてあったし、その時にもらえるんでしょう。


 しかし本当に人が多い。東京とか程じゃないけど、地方都市くらいには人がいるんじゃないかい?

 人口はそんなに多くないはずだけど、密度の問題かねぇ?


 モンスターがいるこの世界だと、必然的に人の住める領域も減るし。ていうかそれが理由で、ゲーム時代は周辺の探索クエストとか受けさせられてたっけ。


 それで、服屋だったね。えーっと、作り的に、たぶんこっちかなぁ?

 あ、ほらあった。


「……先生、この街は初めてなんですよね?」

「うん? そうだよ?」

「その割にはなんだか、迷いがないような気がして……」

「まぁ、街づくりに関わるような仕事もしてたからねぇ。スキルでマッピングもしてるし」


 そういう意味じゃ変な作りでは……うん?


「ああっ! そういうことかぁ!」

「せ、先生!?」


 おっと、通りでこんな大声だしたら完全に不審者だよ。明らかに似てないリリアを連れて歩いてるだけでも時折不審気に見られるのに。


 いや、でも、これは興奮しちゃうよねぇ。後でリリアにも教えてあげないと。恰好の教材だよ。

 まさか、街そのもので魔力回路を形成してるなんてねぇ。


 えっと、今分かってる部分だけだと、魔物除けに対物理障壁、自然魔力吸収っぽい形も見えてるねぇ。

 たぶん対魔障壁になる部分もあるだろうし、精度を調整した悪意探知とかもあってもおかしくないねぇ。


 いやぁ、これを作った人は天才だよ。秘匿されてる技術もあるだろうに。


「先生、なんだか、その、楽しそうですね?」

「あぁ、うん、ごめんごめん。後で説明するねぇ」


 いけないいけない。夢中になっちゃうのは悪い癖だねぇ。

 いつの間にか店の前まで来ちゃってるし。


「君たちはここで待っててくれるかい?」

「にゃっ!」

「んにゃぁ」


 ふむ、けっこう色々あるねぇ。あ、これさっきすれ違った子たちが着てたような気がするねぇ。あれ、こっちだったかなぁ?

 ……うん、おじさんには全部同じように見えちゃうよ。


 どうせこの街の若者のファッション感覚なんて僕にはないし、店員さんに丸投げしちゃおうか。リリアもよく分かってないみたいだしねぇ。


 ちょうど若いお姉さんがいるし、彼女にお願いしよう。

 

「こんにちは。この子の服を買いに来たんですが、適当に選んでもらってもいいですか?」

「あら、可愛らしい子。もしかして、これから入学なの?」

「ええ、そうです」

「それじゃあ張り切ってもっと可愛くしてあげないとね!」

「お、お願いします!」


 さて……、どうしようか?

 僕の服はいらないし、フィアたちのところで待ってようかねぇ?


 うん、そうしよう。


「あ、ちょっとお父さん! どこに行くんですか!?」


 否定するのもめんどくさいねぇ。


「いや、僕がいても仕方ないので、外で待ってようかと。従魔も待たせてますし」

「ダメですよ! お父さんもちゃんと見てあげないと! あと従魔って、そこの猫ちゃんたちですか? だったら連れてきて大丈夫です!」

「え、えぇ……」


 圧が、凄い。いたなぁ、こんな部下。すぐ辞めちゃったけど。

 まぁ、フィアたちも連れてきていいならそうしようかねぇ。


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