第30話 なんか理不尽上司感あったんだがぁ?

「ふぅ、ようやく入れたねぇ」

「にゃぁ……」

「んにゃ」

「ですね」


 フィアとコペンは、明日あたりにでもその辺の森に連れて行った方がよさそうだねぇ。けっこう長い時間並んでないとだったから、ストレス溜まってそうだ。


 なんにせよ、目的地には着いたんだし、しばらくのんびりしようかねぇ。どうせリリアの入学日までは時間があるしねぇ。

 あとゲーム時代にはなかった街だから、観光はしていきたいなぁ。


「まずは宿をとって、それから必要なものの買い出しがてら、街を巡ってみようか。この街はなかなか面白そうだよ」

「そうですね。フィアとコペン君も入れる部屋がいいです!」

「うーん、あればねぇ?」


 まぁ、ゲーム時代のお金が使えたからかなり余裕あるし、大きな街だし、探せばあるかもしれないねぇ。のんびり探そうか。


 入学案内を見た感じ、用意しなきゃいけないものもそれなりにあるけど、こっちは入学までに揃えられたらいいしねぇ。


「この街の大半は学生向けみたいだから、まずは旅人向けの施設が集まってるところを探さないとだねぇ。たぶん、門からそう遠くない位置にあると思うんだけど……」

「この辺は解体所とか武具屋さんが多いみた――」

「うん? リリア?」


 いや、おかしいのはリリアだけじゃないねぇ。

 街の人も、空を飛んでる鳥も動きを止めてる。あっちのお兄さんが落とした財布も空中で止まってるし、これは、時が止まってるんだ。


 つまり――


「多田野雄三」

「女神ジルゲッティンリヒト。また僕の前に現れたということは、以前言っていたバランサーとしての仕事、ですか?」

「そうだ」


 とうとう来ちゃったかぁ。

 神様の時間間隔で、僕の寿命くらいまで仕事がこない期待もしたんだけどねぇ。


「ちなみに、拒否権は?」

「ある」


 おや、意外。しないならお前を消滅させるだとかって言って強制するものとばかり。


「その場合は私が問題の原因をこの街ごと消滅させることになるがな」


 僕を消滅させるのと大して変わらないじゃないか……。そうなれば、リリアが巻き込まれる。実質強制だねぇ。


 神の力となると微調整が利かないのか、効率の問題なのかは知らないけど、たぶん世界の長期的な存続という大局しか見ていないんだろうねぇ。

 そういう意味じゃ、人間を憐れんで手を差し伸べたゲームの女神とは、本当に別の存在なんだろうねぇ。


「はぁ……。それで、仕事の内容は?」

「この街のどこかに囚われた神獣の救出だ。そのせいで天秤が魔に傾いている」

「神獣……」


 神獣を捕らえるなんて、そんなバカなことをしてどうする気なんだろうねぇ。

 神獣にも聖と魔の存在がいるけど、天秤が魔に傾いてるっていうならフィアたちのような聖に属する神獣なんだろう。


 つまり、人間を守護する存在だ。それなのにねぇ。


「――いですし、もう少し奥の方ですかね?」


 てもういないし……。なんだか、割と理不尽だった上司を思い出すなぁ……。


「はぁ……」

「先生?」


 おっと、今はとにかく、リリアのことだねぇ。

 女神は期限については何も言ってなかったし、急げとも言っていない。その辺の情報伝達はしてくれる印象があるから、たぶん、時間に余裕はあるんだろう。


 まぁ、ヤバかったらまた接触してくるでしょ。


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