第25話 ドラゴンの前だったんだがぁ?

 ――ここは、どこかの柱の陰か。

 この明るさからして、それなりに上の階層に飛ばされたんだろう。

 たぶん、十五階くらい。


「せ、先生、ここは……」

「分かりません。上の階に飛ばされたのは確かですが」

 

 良かった、全員揃ってるね。


 でも、レイ君たちの姿はなし、と。

 いや、気配はする。


 すぐ近くだ。


「にゃんっ」

「見つけましたか」


 向こう……。

 見えた。


 ちらちら柱の陰から覗き込みながら、奥の扉を目指してるのか。

 でも、怯えたような表情で何を見てる?


 待てよ?

 この部屋の構造、それに、彼らの目指してる扉……。


「いけない! その扉に触れては!」

「えっ?」


 くっ、間に合わなかった。

 ケン君が扉に触れた瞬間、部屋の中央部に膨大な魔力の気配が生まれる。


「グォォォオオッ!」


 額に剣のような角を持ち、大きな翼と刃のような尾を持った白い竜。

 白剣竜はくけんりゆうソーディエ。

 推奨討伐ML三千百五十の中位竜で、光の神塔第十六階層のボスだ。


 レイドクラスじゃないだけマシだけど、その気配だけでもリリアや少年たちには辛いはず。


「う、うわぁああっ!」

「あ、開かない! なんで!?」

「あの竜を倒すまで扉は開きません、その場を動かないで!」


 彼らが向かったのが逆の上階への扉だったら、ボス戦は始まらなかったのに。

 いや、そんなことを考えても仕方ない。


 まずは少年たちの安全確保が最優先。

 ソーディエの初手は、固定行動だったはず。


 つまり、ブレス!


「【アイギスの堅陣】!」


 良かった、ぎりぎり間に合った。

 ドーム状の障壁は、白のブレスでも壊れる気配はない。


「大丈夫ですか!?」

「みんな、ケガはない!?」

「ユウのおっさん、リリア……!」


 顔色が悪いのは、恐怖からか、魔力にあてられたからか。

 たぶん両方だ。


「リリア、今からこの魔法の魔力回路の制御を渡します。そこにコペンの魔力を流し込んで、この障壁を維持してください」

「えっ、わ、私がですか!?」

「そうです。僕はあの竜を倒さねばなりません。できますね?」


 アイギスの堅陣は超級魔法。

 それに、他者の魔力を利用して魔法を維持しなければならない。


 並の魔術士なら、アドバンスジョブでも難しい。

 でも、リリアならできる。

 

「……分かりました。任せてください!」

「いい目です。フィア、この状況じゃ僕は本気の魔法が使えません。一緒に戦ってください」

「にゃぁっ!」


 上位どころか、中位の魔法でもリリアたちを巻き込んで殺してしまいかねない。


「え、じゃあどうやって!?」

「実は僕、剣もちょっと得意なんですよ」


 大学剣道部の全国大会入賞者といい勝負ができるくらいには。

 まぁ、部活じたいは高校までしかやってないけど。


「それじゃ制御を渡します。一、二、三」

「くぅっ……。だ、大丈夫です。安定しました!」


 うん、やっぱりこの子は天才だ。


 このブレスの持続時間は、障壁にヒットした場合およそ一分。

 不具合だったはずだけど、修正しないって発表があったはずだからこの世界でも変わらないはず。


「もうすぐブレスが途切れます。そしたら、一瞬だけ、前方に穴を作ってください」

「わ、分かりました」


 無茶を言うけど、やってもらう他ない。

 三、二、一……。


「今!」


 タイミング完璧。

 穴の修復も完了してる。


 これで、安心して戦えるねぇ。


「まずはこちらに注意を引きます! フィアは攪乱と遊撃を!」

「にゃっ!」


 ストレージから黒い刃の剣、神魔剣ニズホグリアを取り出し、ダークランスの魔法を顔面に当てる。

 ダメージは、それほど多くないかなぁ。


 中位以上の竜の鱗には魔法阻害効果があるし、仕方ない。

 でも弱点属性でヘイトは稼げたよ。


「ふっ!」


 さすが中位竜。

 なかなかに硬いねぇ。

 本当は今ので指の一本でも切り飛ばしたかったんだけど。


 見たところ、今の強さだともう一回切らないと無理かな?

 まあでも、これで僕に釘付けでしょう。


「ずいぶん憎々し気な目ですねぇ。もしかして、プライドを傷つけましたか?」


 ふむ、どうやら言葉は理解してるようで。

 ここまでのモンスターのように、システム的に作り出された人形というわけではなさそうだ。


 でも、僕ばっかり見てたら危ないよ?


「シャァッ!」

「グルァア!?」


 凄いねぇ。

 一発で足の指一本食い千切っちゃった。


 さすがは推奨ML三千五百のレイド級。

 神獣の名は伊達じゃないねぇ。


 なら僕も、もう少し本気を出そうか。


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