元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)

嘉神かろ

第1話 異世界に来ちゃったんだがぁ?

「あー分かった分かった、お腹空いたのね」


 まったく、君たちの家を設計してるんだけどねぇ。

 猫にじゃれつかれるのは悪い気はしないけども、さすがに神獣相手じゃおじさんたまんないよ。

 フィアの方なんて僕と同じくらいの体高があるんだし。


 ふぅ、設計図はストレージにしまって、腰を伸ばしてっと。

 

「あててて……」


 今の体でも腰にはちゃんとくるねぇ。

 

 さて、お昼ご飯は何にしようか。

 昼過ぎにはあの子達が来るから、簡単に済ませられるものがいいかなぁ。

 何教えるかも考えないとだし。

 

 それでいてフィアたち神獣親子が満足するものかぁ。


「なんだかんだで忙しくしてる気がするのは、なんでだろうねぇ……」


 まぁ、楽しいからいいんだけど。


◆◇◆


「疲れた……」


 借りているアパートに帰ると同時にソファに沈みこむ。

 偶にしか帰らないから、散らかってないのが嬉しいとこだねぇ。

 前に帰ったのは、いつだったかなぁ。


 そうだ、遊び用のチャットの通知確認しておかないと。

 

 て、うわ、通知の数が凄い。

 これはネトゲ仲間とやりとりしてるグループのかな?


「あー、大型アプデがあったのか。皆楽しそうでいいねぇ……」


 最後にしたのは、大学卒業前だから、もう十五年くらい前かぁ。

 このゲーム、えらく長寿だねぇ。

 

 久しぶりに僕もしたいところだけど、今は、三時か。

 六時には家を出て出勤しないとだから、ちょっと無理だねぇ。

 今はとにかく寝たい気分だよ。


「はぁ……」


 大学のころは良かったんだけどねぇ。

 色々気にせずネトゲできて。


 過去の自分にメールを送れるなら、ゼネコンは止めとけって言うんだがねぇ。


「はぁぁ……」


 あー、無理だ。

 寝よう。

 いや、シャワーくらいは浴びて、か、ら……。



「くぁ……。ああ、ソファで寝落ちたのか……」


 ソファにしては硬い気がするけど。

 体もどこも痛くないし。


 ていうか眩しいな。

 もう少し寝たいんだが。

 いや、ダメか。出社しないとだな。


 ん? 眩しい……?


「……うわぁぁぁぁああっ!?」


 ヤバいヤバいヤバい遅刻!

 今何時だ!?

 アラフォーにもなって遅刻だなんて、部長になんて言われるか!


 シャワーなんて浴びてる暇ない。

 上着、上着……うん?


「……僕ぁ、夢でも見てるんですかねぇ?」


 目が覚めたら深い森の中でした、なんて、異世界転生するラノベじゃあるまいに。

 試しに頬でもつねってみますか。


「……痛いですねぇ?」


 ということはこれ、現実?

 いやいやまさか。

 よく見たらこの薄汚れたローブ、僕がネトゲで隠者のロールプレイをするときに着てるやつだし。


 やっぱり夢だよ、夢。


 お、そっちの木の実は初期マップ限定のりんご擬きだねぇ。

 ということはここ、MLOの世界では?


 ますます夢っぽい。

 そうだ、MLOの世界なら魔法も使えるはずだねぇ。

 たしか、最後は大賢者で落ちた記憶があるし。


 そうでなくても最下級魔法なら使えるか。

 的は、あの大きな木でいいですかねぇ。


「えーっと、【ファイアボール】」


 おお、本当に出た。

 火の玉が右手から出て、少し先の大木に飛んでいく。


 あ、そういえばこの魔法、着弾地点で爆発するんでしたっけ?


「うおっ!?」


 なんて爆発だ。

 油断すると吹き飛ばされる。

 口を開けてなかったら鼓膜も破れてたかもしれないねぇ、これは。


「痛てて……。うわぁ……」


 起き上がってみて、驚いたよ。

 さっきまで森の小道だった場所がちょっとした広場になっちゃってるんだもの。


 これは、気軽に使えないねぇ。

 こんな危ない魔法だったのかぁ、これ。


 冷や汗なんてかいたの、いつぶりだろうねぇ……。


 ていうか、さすがに夢にしてはリアルすぎる。痛いし、煩いし。

 ということは、だ。


 これは、現実ってことでいいんだろうねぇ。


「うん、ストレージもちゃんと開けるねぇ……」


 中に入ってるものもなんとなく覚えがある。

 これは、やっぱりあれしちゃったってことかねぇ?

 異世界転生。


 それも、MLO、マーセナリー・リブラ・オンラインの世界に。


 昔やり込んだゲームで良かったって思うべきかねぇ。

 ログアウトはたしか、この辺に……ない、ね。


 うーん、戻れないタイプの異世界転生、いや、体は元のと一緒っぽいから、異世界転移かね?

 鏡、鏡……。

 ああうん、僕の顔だ。さえないおじさんの顔だ。


 なるほどねぇ……。

 うーん……。


「とりあえず、残してきた仕事、どうしようかねぇ……」


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