第三審前夜

「第三審前夜、心強い弁護士と二人だ」


 殺山ころすやまはそう言い、第三審を共にする弁護士のヨハンと明日の作戦を練っていた。

 屁多へた糞郎くそろうは見限った。


「頑張りマース」


 ヨハンはそう言った。


「クソッ、まさか俺がした殺人の全てがバレちまってるとはなぁ……計画は完璧だったはずなんだが……」


 殺山ころすやまはそう愚痴ると、夜空を見上げる。

 今、二人は都内のホテルの一室にいる。あの事件の起きたホテルとは別のホテルである。

 部屋は最上階───30階のスイート。殺山ころすやまは謎に資金力があった。


「アレホドの証拠が出揃っテマースから、無罪放免は無理デース。ドウニカ、情状酌量がもぎ取れるようなコトは無いデースか?」


「はぁ? ざけんなよ!! 無罪にならなきゃ刑を受けちまうじゃねェか!!! そんなの許さん!! どうにか俺が無罪になれる言い訳を考えろや!! 頭良いンだろ!?」


「オーウ、他力本願のくずデースネ。コンな依頼受けなきゃ良かったデース」


 ヨハンは早くも後悔していた。そしてやる気も無くしていた。


「デーシたら、国外逃亡でも試みたらドウデュースか?」


「お、いいなそれ」


「Oh what a crazy ma~n」


 皮肉のつもりで言ったことが受け入れられ、さすがのヨハンも困惑である。


「んじゃ、今から俺は準備するから、お前は俺の周りを見張っといてくれ」


「無理デース」


「は? なんでだよ!! テメェが言い出したんだろうが!!!」


「法の番人として許容できないデース」


「チッ、役立たずが」


 殺山ころすやまは悪態をき、


 ──ガッ!!


 その辺にあった空き缶を蹴り飛ばした。

 空き缶は綺麗な放物線を描いて飛んでゆく。


「ナイスショットデース」


「まァな」


 ゴッ!! カランカラン……


 と、鈍い音が響き、空き缶が転がる音がした。


「んぉ? ──いっ!?」


 異音を耳にした殺山ころすやまが下を見ると、頭から血を流してうつ伏せで倒れている男が居た。


「やべやべやべ……」


「どうシマーシタか?」


 横からヨハンが下を覗こうとする。

 殺山ころすやまは慌ててヨハンを通せんぼし、罪の隠蔽を試みる。


「くっ…!!」


「……What?」


 その様子を訝しんだヨハンは、殺山ころすやまを押し退けようとする。

 だが、殺山ころすやまも必死だ。これ以上罪を重ねる訳にはいかない。ヨハンを必死で遠ざけようと試みる。


「何デースか? 何を隠そうとしてるンデースか?」


「なッ、何も無い!! 何も無いから!! 戻れ!!!」


 だが、その態度がさらに疑念を加速させる。


 ヨハンは鍛えていた。仕事柄、荒事が予想されるためだ。殺山ころすやまの抵抗虚しく、ヨハンは結局下を覗くことに成功する。


 だが───



「…アレ? ホントに何も無いデース」



「…え?」


 殺山ころすやまが下を覗くと、ただ地面に空き缶が転がっているのみだった。


「……あれ?」


 見間違いだったのだろうか?


 殺山ころすやまは訝しんだが、見間違いだったのならそれ以上のことは無い。

 殺山ころすやまは深く考えないことにした。

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