第2話 浜辺の少女

 わたしは海のすぐ近くのマンションに住んでいる。ベランダから砂浜が見下ろせる。ある日、ベランダに出てぼんやりと視線をさまよわせていたら、女の子の姿を見かけた。

 学校帰りらしい高校の制服姿で(よく見かけるブレザーの制服だった)歩いている、だけだったら別におかしくは無いのだが、その女子高生はかなり大きな流木を抱えて歩いていた。流木は今年の台風シーズン後に浜辺に来たものだ。


 そんな重たいものをわざわざ持って歩いてどうするのだとわたしは思った。女子高生は波打ち際に向かってずるずると立木を引きずりながら抱えて歩いている。

 

 制服、汚れちゃわない?わたしがあの子のお母さんだったらちょっと困るかも……と考えながら女子高生の動きを追った。ホントに重たそう。声は聞こえないけど、よいしょ、よいしょ、という感じで懸命に運んでいる。


 やがて波打ち際に、女子高生は抱えた流木で落書きを書き始めた。何を書くのだろう。書いている人が女子高生という事で、わたしは恋のおまじないでも始めるのかなと思った。

 女子高生は円を何重にも描き始めた。ちょうど、ダーツや弓道のまとみたいな感じだ。それを見てわたしは、ただ気晴らしの運動として、適当なものを書いているのだろうか、とも思った。

 一番外側になる円を描き終えた女子高生はドン、という感じで流木を放り出すと天を仰いだ。

 彼女の視界に入るのは私じゃない。私の居るベランダはちょっと斜めに外れている。彼女は大空を見ている。

 女子高生は声を張り上げた。

「撃てるもんなら撃ってみろ!」


 わたしはポカンとした。え、本当に的なの?空になんかいるの?思わず私も空を見上げた。普通の青空だった。

 再び下の砂浜を見たら女子高生はスタスタと浜辺を後にして歩道に向かっているところだった。大きな木を抱えていないので身軽に歩み去って行く。


 謎行動。若さゆえ?どうだろう……。とりあえず私は波打ち際に書かれた的の端っこが波に洗われるのをしばらく見つめていた。

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