day11「初めての遊園地」

(人が多い……)



 改札を抜けた柊は、顔を青くしながら肩を落とした。



「東京駅着いたねー! ……って、柊大丈夫!? 顔色悪いわよ……!?」



 白いオフショルダーのシャツに黒いミニスカートというおしゃれな服装の四葉は、振り向くなり柊の顔を見て目を丸くした。



「大丈夫。ちょっと人酔いしただけ」



 白いロングTシャツに黒いジャージの半ズボンといういつも通りの服装の柊は、四葉の目を見て力なく笑ってみせた。



「柊ちゃん本当に大丈夫……?」



 柊の腕を掴みながら猫耳をぺたんと下げ、フェリスは心配そうに柊の顔を覗き込む。



『大丈夫。普段こんな人混み来ないから、体がびっくりしてるだけ』




 ──そう。ここはゴールデンウィーク初日の大混雑している東京駅。そして三人は東京シティランドに向かっている最中だ。人混みをある程度抜けた辺りで、四葉が再度振り向いて言った。



「駅出たら、予定通りファミレス入って休みましょ。ファミレスまで行けそう?」

「うん。行ける」



 前を歩く四葉の頼もしい背中を見ながら、柊は眉間に手を当てた。



(ゴールデンウィーク初日の東京駅ってこんなに混むんだな……東京来るの初めてだから、完全に想定外だった……)



 柊はふと振り返って人混みを再視認し、うんざりしながら目を伏せたのだった。





「思ったより早めに入れて良かったね〜」

「そうだね」



 駅を抜けた先にあった、満席のファミレスの店内にて。手で顔を扇ぎながら四葉は柊に言った。柊は返事をしつつメニューを四葉に手渡した。



「あっ、ありがとー」



 四葉が見ているメニューを柊が反対側から眺めていると、四葉が苦笑いしながらメニューを取り出して手渡した。



「はい。もう一個あるからね」

「あ、ありがとう……」



 柊は俯きがちにメニューを見始めた。



(メニュー表っていくつかあるものなんだ……ファミレスなんて全然来ないから知らなかった……)



 ざっとメニューを見終わり、柊は注文するメニューを決めた。



(……一番安いのでいいか)



 柊は顔を上げ、四葉に「決まった?」と声を掛けた。



「うん、決めた」

「分かった。……すみませーん」

「あはは! 店員さん呼んで注文するんじゃなくて、最近はこのタブレットに入力するのよ」

「えっ……」



 四葉はテーブルに置かれていたタブレットを持って、何やら操作し始めた。



(それ私達が入力するものだったんだ……店員さんがやるものだと思ってた)



 すると、すぐ左隣からくすくすと笑い声が聞こえた。ちらりと視線を移すと、フェリスが口元に手を当てて笑っていた。



「ふふふ、柊ちゃんさっきからおもしろーい!」

(この……!)



 柊は顔を赤くしながらフェリスになんとテレパシーを送ってやろうか考えていると、四葉が柊に問うた。



「柊は何頼む?」

「えっと、たらこパスタ」

「はーい。……よし、注文完了!」



 タブレットを元の位置に置いた四葉を見ながら、柊ははっとした。



(き、気が付いたらまた四葉の足を引っ張ってしまっていた……。今回はあまり四葉のお世話にならないようにしようと思っていたのに……!)



 内心頭を抱えていると、フェリスが柊に話しかけてきた。



「ねぇ柊ちゃん!」

(嫌な予感がする)

「四葉ちゃんが学校でどんなことして過ごしてるのか、聞いてくれる? 気になったの!」

(うっ……やっぱり……)



 フェリスのお願いにまたも抗えず、柊は仕方なく口を開いた。



「……四葉って、学校でどんな風に過ごしてるの?」

「えっ」



 四葉の口角がぴくりと動き、表情が引きつる。そんな四葉に、フェリスと柊は質問を続ける。



「お友達いっぱいいる!?」

「……友達とかいる?」

「ちょっ……そ、それは……」



 少し間を置いてから四葉はてへへと笑い、静かに語り始めた。



「……あたし、友達作るの下手でさ。だから、こんなに仲良くしてくれてるのは柊だけだよ。友達と遊びに行くなんて今回が初めてだし……」

「そうなんだ。出掛け慣れてるのかと思ってた」

「あー、一人でよく遊びに行ってるから、出掛けること自体は慣れてるかも……?」



 自身のサラサラのツインテールに触れながら、四葉は困ったように笑う。



「というかほら、あたしって見た目からして近寄り難いでしょ? 金髪に赤いツリ目なんて……」

「そうかな。四葉からは優しい雰囲気がするけど」

「優しい雰囲気!? あたしから!?」



 あっけらかんと言い放った柊に四葉はぎょっとした顔でそう言った。そんな四葉を、柊とフェリスは口々に肯定する。



「……? うん」

「うん! 四葉ちゃんが優しい人だって、初めて会った時から分かってたもん!」

「えぇ……! そ、そんな……えへへ……」



 こんな調子でしばらく照れていた四葉が、唐突に口を開いた。



「が、学校といえばさ! 柊もうちの高校の定時制来ない? 定時制の登校時間って全日制の下校時間と被るから、夕方になったら毎日会えるし!」



 そんな四葉の提案を柊はぴしゃりと断った。



「え、嫌かな……学校とか面倒くさいし……」

「えー!」




 二人が話に花を咲かせていると、あっという間に料理が運ばれてきた。



「お待たせしましたニャー!」

「……!?」

「わー! ありがとう、猫ちゃんのロボットさん!」



 平然としている四葉、はしゃぐフェリスとは対照的に柊の思考は停止した。



「……? 柊、どうしたの?」



 柊の異変に気が付いた四葉が、配膳ロボットからハンバーグセットを取りながら柊に声を掛ける。



「あ、いや……」



 柊は思わず少し開いてしまっていた口を閉じ、四葉の真似をして配膳ロボットから恐る恐るたらこパスタを受け取る。

 それを見届けた四葉が配膳ロボット上部の画面に触れると、配膳ロボットは愛らしい声で元気良く「ごゆっくりニャー!」と言って去っていった。


 柊とフェリスは配膳ロボットが通路の角を曲がって見えなくなるまで配膳ロボットを凝視していた。フェリスに至っては全力で手を振っていた。



「……まさかロボットが運んでくるとは思わなくて。しかも何か……可愛らしい感じだったし」



 思考が戻ってきた柊はカトラリーボックスからフォークを取り出しつつ、四葉にそう説明した。柊に続いてフォークを取り出しながら、四葉は穏やかに笑う。



「ふふっ、あたしも初めて見たときびっくりした。確かに可愛いわよね」



 すると、四葉がハンバーグに伸ばしたフォークを引っ込めて言った。



「……あ、話に夢中になって忘れてたね。お水持ってこようか。ここセルフサービスだから」

「う、うん。行こう……」

「二人とも行ってらっしゃーい!」



 二人は苦笑いをして顔を見合わせ、水を取りにドリンクバーへ向かうのだった。





「おいしかったね。……柊、行けそう?」

「うん。もう大丈夫」



 休憩して食事を取り、すっかり顔色の良くなった柊はしっかりとそう言った。



「柊ちゃん元気になってよかったー!」



 フェリスはにこにこと笑いながら柊の肩に頬を擦り付けた。



「それじゃ、そろそろ向かおっか。東京シティランドに!」



 二人は割り勘して会計を済ませ、ファミレスから程近い場所に位置する東京シティランドへ歩を進めた。





「わぁー!!」



 受付でチケットを買い、人でごった返す東京シティランドに入場するなりフェリスが歓声を上げた。



「すごいすごい!! 何から乗る!?」

(はしゃぎすぎてはぐれないといいけど……)



 フェリスのことを憂いていると、柊の右隣を歩く四葉が言った。



「ね、何から乗ろうか?」

「どうするー!?」



 フェリスと四葉は互いによく似た屈託のない笑顔を浮かべていた。そんな二人を見て、柊はふと考える。



(私はあんな風に笑えそうにないな……何となくだけど)



 遊園地という楽しげな場所に似合わない暗い考えを振り払い、柊は苦笑いしながら言った。



「……四葉はどこか行きたいところある?」

「私? じゃあ……あれとか?」



 四葉が指を差した先にあったのはメリーゴーランドだった。



「あのぐるぐる回ってる乗り物!? 楽しそうー! いいと思うな!」

「うん、いいと思う」

「早速並んでみよっか!」




 三人はメリーゴーランドに向かった。それから列に並んで十分程度で柊達の順番が来て、他の乗客達と共に一斉にメリーゴーランドの内部へと進む。



「柊ちゃんどれに乗る!? お馬さん!? それとも車みたいなの!?」

『私は馬車……車みたいなのでいい』



 目を輝かせながら機械の馬に跨る四葉を横目に、柊は四葉が跨る馬の横にある馬車の中に座った。するとフェリスが真横に座ってきて、頭を柊の肩に預けてきた。



『ちょっと、そんなにくっつかなくていいでしょ』

「えへへ、楽しみだなー!」

『聞いてないし……』



 そうこうしているうちに、係員による注意事項のアナウンスが入った。それが終わると、ついにメリーゴーランドが回り始めた。華やかな音楽と機械音が場を支配する。



「わぁ……!」



 フェリスと四葉の嬉しそうな声が重なった。小さな子どものように──片方は本当に小さな子どもだが──はしゃぐ二人を眺めながら、柊は考えを巡らせる。



(フェリスと四葉ってちょっと似てるかも……笑い方とか、雰囲気とかが)



 フェリスと四葉を交互に眺めていると、左腕に柔らかい感触を覚えた。柊が左腕を見ると、フェリスが柊の腕に抱きついていた。



「楽しいね、柊ちゃん!」



 そして柊の顔を覗き込み、満面の笑みを浮かべた。



「……まぁ、うん」



 柊とフェリスは狭い馬車の中でひっそりと手を重ね合わせながら、メリーゴーランドを楽しんだのだった。




 数分後。音楽がフェードアウトしていき、メリーゴーランドがゆっくりと停止していく。



「ふぇー、もうおしまいか〜」



 メリーゴーランドが完全に停止し、アナウンスで係員の許可が降りてから、乗客達は続々と馬や馬車から降り始めた。馬から降りて伸びをしている四葉に、馬車から降りた柊は思ったことをそのまま口に出した。



「楽しそうだったね」

「なっ……!? そ、そう……?」

「うん、四葉ちゃん楽しそうだった!」

「さ、さぁ、次は何乗ろうか……!?」



 四葉はなぜか顔を赤くしながら別の話を振ってきた。



「……正直遊園地のことはよく分からないから、次も四葉が決めてほしい」

「うーん……分かった。でも、気になるアトラクションあったら遠慮なく言ってね!」

「うん」

「次は何に乗るのか楽しみだなー!」



 そんな会話をしながら、三人はメリーゴーランドを後にするのだった。





 メリーゴーランドを出て少し歩いた辺りで、四葉が不敵な笑みを浮かべて言った。



「……柊って、絶叫系大丈夫?」

「絶叫系……?」

「例えば──あのジェットコースターとか」



 四葉の視線の先にはジェットコースターが堂々とそびえ立っていた。ちょうど、レールで作られた長い坂を乗客を乗せた車体がゆっくりと登っていくところだった。



「あのくらいのスピードなら大丈夫そ──」



 柊がそう言った瞬間。ガタンと音がしたと思えば、車体がものすごい速さでレールを下っていった。乗客達がものすごい悲鳴……いや、歓声? を上げながら、遥か下にいる柊達を追い越していった。



「!?」

「ふふっ。……大丈夫そうなら、乗ってみない?」



 思わず振り返って車体の行方を見守る柊を見ながら四葉は腕を組み、目を爛々とさせていた。



(正直ちょっと怖いけど……。フェリスにこんなのも乗れないと思われたくないし、よし……!)



 柊は少し考えてから、すました顔で言った。



「大丈夫。──乗ろう」

「本当に大丈夫? そういうことなら早めに並ぼうか。結構待ちそうだからね」

「やったー! びゅーんってなるの楽しみだなー!」



 こうして、三人はジェットコースターに乗ることになったのだった。




 約一時間半後。ジェットコースターの列に並びながら四葉のスマホでリバーシをして遊んでいると、柊達の順番が来た。ちなみに今回のリバーシは一回だけ柊が勝てた。



(リバーシ勝ったらフェリスが褒めてくれた……次も勝てるように頑張ろう)



 フェリスに褒められたことで柊が心の温かさを覚えていると、先導する四葉がジェットコースターの座席を見て言った。



「あっ、あたし達が一番後ろみたいね」

(三人掛けで、他の席は既に全部埋まってる……フェリスも乗れそうで良かった)



 四葉が一番奥に座り、その隣に柊が座った。最後に手前の席にフェリスが座ると、四葉がゆっくりと安全バーを下ろした。



「安全バー大丈夫?」

「うん」

「大丈夫!」



 柊とフェリスが四葉に返事をしていると、係員が安全バーを素早く確認して立ち去っていった。それから少しして係員のアナウンスが入り、ジェットコースターが音を立てて動き始めた。




 柊達を乗せた車体がゆっくりと急坂を登っていく。柊は胸に手を当てて自分に言い聞かせた。



(大丈夫……大丈夫……大丈夫……)



 そしてガタンと音を立てて、車体はついに頂上に到達した。静寂の中、柊の鼓動が警笛を鳴らすように暴れ出す。



「……っ!?」

「柊ちゃん? 大丈──」



 柊が思わず小さく声を漏らしたのと同時に、車体が動き——下り坂を急速落下していった。



「きゃああああああ!!」

「ひぃ……っ!?」



 両脇で楽しそうに悲鳴を上げるフェリスと四葉とは対称的に、柊はまたも小さな声を漏らした。



(いや無理無理無理……!)



 柊は手すりを抱き締めるように握り締めながら、恐る恐る顔を上げた。レールはかなり先へと伸びている。つまり、この恐怖はまだまだ続きそうだ──。




「……はっ」



 柊が顔を上げると、車体がゆっくりと減速しているところだった。左手には先程まで柊達が並んでいたジェットコースター乗り場と行列が見える。どうやら恐怖の時間は終わったようだ。



(お……終わった……? あまり記憶がないんだけど……)



 座りながら肩と腕を伸ばす四葉が、柊の方へ首だけ向けて言った。



「はー、楽しかったね。柊、大丈夫だった?」

「もちろん」

「うんうん、楽しかったね!」



 顔面蒼白の柊とは違い、フェリスと四葉は満足げな表情だった。



(四葉はともかく、フェリスってジェットコースター大丈夫なんだ……こんなに小さいのに……?)



 係員の手によって安全バーが上げられ、車体から降りるようにアナウンスが入った。乗客達は指示に従い、次々と車体から降りていく。軽やかな足取りで車体から降りていったフェリスに続いて、柊もおぼつかない足取りで車体から降りた。──が。



「わっ……」

「柊!?」

「柊ちゃん!?」



 柊は強い恐怖を感じたためか、ぺたんとその場にへたり込んでしまったのだった。



「死ぬかと思った……」

「す、すみません! この子はあたしがすぐに連れて行くので……! ごめんね柊、立てそう……!?」



 柊は思わずそんな本音を呟きながらも何とか立ち上がり、四葉に引きずられるようにしてその場を後にしたのだった。





 四葉によってジェットコースター付近のベンチに座らされた柊は、ぺたんと猫耳と尻尾を下げたフェリスからじとりとした視線を受けていた。



「もう、怖いなら怖いって言ってくれたらよかったのに〜……」

『だって……フェリスが乗れるのに私が乗れないなんて情けないでしょ』

「そんなことない! 柊ちゃんはどんな柊ちゃんでもかっこいいし、かわいいもん!」

『かわ……っ!?』



 そんな会話をしていると、「お手洗いに行く」と言って席を外していた四葉が両手で何かを抱えて小走りでこちらにやってきた。



「柊ー! はい!」



 そう言いながら、四葉は抱えているプラスチックのケースの蓋を開けた。すると、バターの香ばしい香りがふわりと広がった。



「わー、いい匂い!」

「……これは、ポップコーン?」

「うん、休憩がてらつまもうよ。あ、もし苦手ならあたし一人で食べちゃうけど……」



 四葉はポップコーンを一つ口に放り込み、「おいしい……」と顔を綻ばせた。



「苦手ではない。……じゃあ、いただきます」



 まだ温かいポップコーンをポリポリとつまみながら、柊は言った。



「あっ、お金……」

「あーお金はいいよ、あたしが食べたかっただけだから。……それに、ジェットコースターでは無理させちゃったしね。ごめんね、柊」

「……分かった」



 三人はポップコーンを食べて他愛もない話をしながら休憩したのだった。





 その後も三人は、なるべく絶叫系は避けつつアトラクションを回った。



「あははっ、大きなブランコみたいで楽しいね!」

「本当だ。一番真ん中に乗ったら全然怖くない」

「ふふっ、そうでしょ?」

(これ、バイキング……だっけ。アトラクションの中では結構好きかもしれない)



「きゃー!!」

「……おー」

「びっくりした……って、柊、お化け屋敷には強いんだ……!?」

「そうみたい。怖いなら私が先頭でいいよ」

「さすが柊ちゃん! でも、置いていかないでね柊ちゃん……!」



「この丸いの、何?」

「あっ柊、それ回しすぎたら……!」

「わわっ! 目が回る〜……!?」

「それを回すと私達が乗ってるコーヒーカップも回るんだよ〜……!」

「ご、ごめん……!」





「あー、いっぱい遊んだね……!」



 陽が落ちきった園内にて。観覧車のゴンドラに揺られながら、四葉は満足げな笑みを浮かべて言った。



「そうだね」

「うん、楽しかったね! 四葉ちゃん!」



 ふと話題が途切れて少し気まずい空気が流れるゴンドラ内で、四葉が思い出したかのように言った。



「……そういえば、柊は今年の夏に予定ある?」



 柊は「うーん……」と唸ってから、ぽつぽつと語り始める。



「夏は……どこかで親戚の家に行く。あとは両親も帰ってくるかも。それ以外は普段通りバイトする予定」

「帰ってくる……」



 柊の言葉を小さく復唱した四葉を不思議に思いながら、柊は話を続ける。



「……? まぁ、あとは……特にないかな」

「そっか……あっ、そろそろ頂上だね」



 四葉の言葉で柊とフェリスは視線を窓の外へ移す。すると上にはよく晴れた星空が、下には東京の夜景が遥か遠くまで広がっていた。そんな光景は、さながら星空の中を小さな宇宙船で漂っているようだった。



「ねぇ、柊……! 私と……!」



 視線を四葉に戻すと、四葉はルビーのような目を煌めかせながら柊をまっすぐ見つめていた。



「私と……私、と……」



 かと思えば言葉に詰まって俯き、スカートの裾をきゅっと握り締めた。柊はなるべく優しい口調で四葉に問いかける。



「……どうしたの?」

「いや……何でもない。ごめんね」



 四葉は寂しそうに笑って謝ると、窓の外へ視線を移した。



「四葉ちゃん……?」



 フェリスが心配そうに呟いてから程なくして、ゴンドラは地上に着いた。





 人混みの中を三人ははぐれないように注意しながら歩いていた。閉園のアナウンスを聞きながら、四葉が遠い目で呟いた。



「もし妹がいたら、柊みたいな子だったのかな……」

「妹?」



 四葉の突拍子もない発言に、柊は首を傾げる。



「……うん、もしもの話ね。今日遊んでて思ったの。柊、なんだか私の妹みたいだなって」



 少し前を歩く四葉はそう言って一瞬振り返り、ふわりと笑った。



(い、妹みたいってことは……やっぱり四葉の足を引っ張りすぎてた……!?)



 しばらく考えを巡らせてから、柊は密かにショックを受けるのだった。




「ねぇ、柊ちゃん!」



 四葉と話してからほんの少し後、フェリスは柊と繋いだ手を握り直しながら目を閉じる。そしてゆっくり、しかしはっきりと言った。



「わたしね、柊ちゃんの笑った顔が好きなの」

(……こっちもまた突拍子もないな)



 柊は頬が熱くなるのを感じながら、『……そう』とフェリスにテレパシーを送った。



「だから、柊ちゃんを──もっと笑顔にしたい! これからも、柊ちゃんを笑顔にするからね!」

『……はいはい』



 適当にテレパシーを送りながら、柊はそっと胸を撫で下ろす。



(“私を笑顔にしたい”だなんて、ただのフェリスのエゴのはずなのに……なぜか心が温かいような……)



 その温かさの理由を考えても分かることはないまま、遊園地の入場ゲートに着いた。



(……まぁ、いいか)



 柊はゲートを抜けつつ、自身の手からするりと離れて隣のゲートを抜けるフェリスの横顔を見つめた。前方から風に吹かれて、その白銀の髪がサラリと靡く。



(私はフェリスのことを……もっと知りたい。だから、フェリスのことをもっと……聞かせてくれるといいな)



 入場ゲートを出て伸びをしつつ大きなあくびをするフェリスを見ながら、柊はつい小さな笑みをこぼしたのだった。

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