第18話
真夜中にも関わらず、アモンは突然の来訪に快く出迎えました。
やってきたのはアクマリーゼを支える三人の使用人たちです。
「アモン公爵様! アクマリーゼ様はどうなったのです!」
「君はたしかサフィー君、アクマリーゼは今拘置所におる」
「ちょっと待って? なんで♧アクマリーゼ様が捕まっているの!?」
エメットは直ぐに魔法で拘置所を調べます。
ですが拘置所の一部は強力なジャミングで、透視できません。
おそらくそこにアクマリーゼ様はいる。
サフィーはいても立ってもいられません。
「直ぐにお迎えに!」
「待ちたまえ! この時間では面会も出来んぞ!」
「そうそう☆ サフィー流石に拘置所襲撃はやめてよ?」
「それは何故? あんな臭い場所に閉じ込めた奴らを皆殺しにするのは当然でしょう?」
駄目だコイツ、エメットは呆れ返ります。
そんなことをすれば、アクマリーゼの嫌疑はより深まり、もはやこの国にはいられなくなるでしょう。
「ん、落ち着けサフィー」
「えっ!? ルビアが喋ったーッ!?!?!?」
「んー」
やるならやる女ルビアですが、アクマリーゼに不利益を被らせるのは良しとしません。
それにアクマリーゼがただで転ぶ筈がないと、ルビアは信じています。
「お主たち、今日はもう遅い、ここに一泊しなさい」
「……く、アクマリーゼ様、必ずお迎えに」
「申し訳ありません☆ アモン公爵様♡」
「ん」
アクマリーゼを巡る政争、それはゆっくりと発進しました。
けれどそれはいつしか誰も止められない暴走特急と化すかも知れません。
アクマリーゼを心配する三人とアモン、アクマリーゼの失脚を望むヤリスギー。
果たして決着はどこにあるのでしょうね。
明くる日、アクマリーゼは目を覚ますと、ここがどこか一瞬混乱しました。
ですが直ぐに拘置所だと気づくと、心を落ち着かせます。
「はてさて、これから尋問でしょうかね」
などと言っていると、鉄格子の前にヤリスギーが現れます。
「ぐっすり眠っていたようだな」
「はい、おかげさまで元気百倍ですわ」
「ふん、あの男の娘だな、図太いことだ」
というと、アモンパパも図太いのでしょうか?
今では好々爺とした顔しか見せませんが、仮にもコワイ家の当主、色んな顔を持つのでしょうね。
「それで尋問、でしょうか?」
「ふん、その必要はない」
「あら、それでどう罪を立証しますの?」
「直ぐにわかるさ、連れてこい!」
鉄格子が開くと職員がアクマリーゼを拘束します。
「ああん、変なところ触らないでくださいまし」
「す、すみませんアクマリーゼ様」
アクマリーゼはこの職員が誰か直ぐに気づきました。
「あなたカインさん? たしかイチイ村の出身の」
「覚えていてくれたんですね」
警察とアクマリーゼは癒着しています。
コネは活かすのがアクマリーゼなのですから、とはいえヤリスギーもそれには気付いているでしょう。
これは化かし合いの予感でしょうかね。
「アクマリーゼ様、しばしご容赦を」
「わかりましたわ」
二人は小声で言います。
ヤリスギーはもたもたする職員に怒鳴りました。
「さっさと出さんか!」
「はいっ! ただいま!」
アクマリーゼは久しぶりに牢屋を出ると、そのまま更に地下へと案内されます。
頑丈な鉄の扉、段々とアクマリーゼに嫌な汗が流れます。
「ここは?」
「入ればわかる、お前はもういい、持ち場に戻れ」
アクマリーゼをここまで連れてきた職員のカインは呆然とします。
だがヤリスギーに二言目はありません。
「さぁ入れアクマリーゼ!」
「くう!」
アクマリーゼは抵抗します、ですがヤリスギーは無理やり鉄の扉の奥へと押し込みました。
「あぁっ!」
尻もちをつくと、アクマリーゼの前に広がるのは、数々の拷問器具でした。
彼女は顔を青ざめると、ようやく意味を理解します。
「尋問ではなく、拷問ですか」
「ククク、ここは昔は処刑場でもあった、今では絞首刑や電気ショック刑の方が主流だがな」
古の処刑場、ゴクリとアクマリーゼも喉を鳴らします。
「さてどれからいくか」
「ヤリスギーさん、貴方のでっち上げた罪状はいつか白日の下に出ますわ」
「果たしてそうかな? ククク……まぁどっちでもいい、貴様はここで
古来拷問器具の使い方といえば、罪の自白と考えがちでしょうが、事実は異なります。
皆様は魔女審判をご存知でしょうか、中世ヨーロッパで実際にあった拷問の数々です。
罪なき人々が、罪をでっち上げられ、やってもいないのにやっとと自供するのです。
死ぬような痛みから解放されるために、死を選ぶのです。
これが正しい拷問です。
「ククク……先ずは定番どころからいくか」
そう言うとヤリスギーが手に取ったのは鞭です。
彼は鞭の束を手で遊ぶと、悪どく笑いました。
「どうして面会出来ないのだ!」
朝一番、アモンとアクマリーゼの使用人三人は直ぐにでも拘置所を訪れました。
しかしアクマリーゼとは面会出来ないと言われます。
「今尋問中ですので、時間を置いてから再度お願いします」
窓口案内をする女性職員は、ただただ平謝りでした。
相手は仮にもアモン公爵、下手な真似は出来ない相手です。
でも本当に恐れているのは、その後ろにいる青い髪の少女にです。
青い髪の少女は
いかにも狂人という雰囲気に職員は泣きたくなります、本当にごめんなさいね。
「あぁぁもどかしい」
「アハッ☆ サフィー、ちょっと落ち着こう、ねぇ?」
「ギリギリギリギリギリギリ」
「ん」
ルビアが強引にサフィーの口に飴を突っ込みます。
サフィーは飴を噛むと、ガリガリ噛み砕きます。
ちなみにこの飴はアモンパパがくれたものですね。
「ん」
「……少しだけ、落ち着きました、ギリッ」
「まぁお腹空くとイライラするもんねー♢」
「アクマリーゼ様に一刻も早く温かいご飯を食べていただかねば」
もう限界でしょうか、サフィーは白目を向いて振動する姿は最高潮を迎えています。
このままではアクマリーゼ奪還の為に、ケモノと化すでしょう。
それだけはいけないと、ルビアは静止しますが、エメットも本音では。
「やっぱり納得はいかないよね……アクマリーゼ様、無事かな?」
「フーッ! フーッ! ええい、かくなるはもう皆殺しにして、アクマリーゼ様と国外逃亡を!」
「こらこら☆ アクマリーゼ様を勝手に誘拐するな▽▽▽」
「んー」
さて、マイペースに飴を舐めているルビアですが、彼女とて不満がないわけではありません。
彼女はズドンと壁を叩くと、建物が横揺れします。
驚いたエメットは、直ぐにルビアを注意しました。
「こら☆ いきなりなにやってんの♧」
「ん、んー!」
「むしゃくしゃしてやったって?」
「んー」
ルビアだって同じなのです。
サフィーもエメットもルビアだって、アクマリーゼがいなくて心配で切なくて不安になります。
このままではサフィーもルビアも暴走するのは目に見えています。
常識人のエメットは「ううう」と悶絶します。
いっそ本当に暴れちゃおうか、と良からぬことを考えてしまうほどエメットも追い込まれているのです。
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