冒険者ギルドの総務係、失恋で五年霊山籠りしたら最強仙人に 〜野生の神獣少女に心癒され復帰。俺を振ったエルフ受付嬢は冒険者になって俺を探してるって?〜
第4話 すっぽかしたいけど印象悪いし……と思ったら不幸中の幸い
第4話 すっぽかしたいけど印象悪いし……と思ったら不幸中の幸い
ええ? なんか攻撃されそうなんだけど!
感じる魔力はそれほど強くない。属性は風――エルフの十八番だ。
この陣はたしか、空気の大砲を撃つ魔法だったっけ? 避けたら建物や他の人に影響あるかもだし、ここは――
「【鋼身の業】」
準備時間が少ないのも仙術の利点だよね。フレンさんの魔法もほとんどノータイムだけど、後から動いて先を越せるんだから。
なんて、余裕綽々でフレンさんの攻撃を防ごうと思っていた、その時だった。
「……え。臭いが薄れて下から……この、香り……! ――まさか、ほんとうに!?」
「え。な、なんで急に……」
「ルウ、さん……っ! ほんとうに! ……あッ!」
「ま、魔法が!」
もはや敵意は欠片もなかったんだけど。
発動直前の魔法をキャンセルするのって、すごい繊細な技術がいる。いまのフレンさんみたいに大きく動揺した時、キャンセルに失敗して暴発すると非常に危ない。
そして、いま俺の目の前でそれが起きようとしていた。
瞬時に状況を悟り、目をぎゅっとつむって腕で身体を守るフレンさん。
でも。
「動かないでください――」
俺はカウンターを飛び越え、わずかな時間でフレンさんのもとへ。
そうして、魔力が集まりいまにも爆発しそうな魔法陣に向かって――――勢いよく、拳を突き入れた。
パァンと、空気が破裂するような音。
驚いたらしいフレンさんが目を開くと――
「――私の魔法が……!?」
ふふふ、驚いている。他人が発動してる魔法って、基本的に干渉できないからね。
でも、仙術ならそれができる。
気や丹は自然に近しいエネルギーだから、理を歪める力である魔力と相反する。それを利用すれば、発動直前の魔法陣を霧散させることなんて容易いんだ。
これ、魔法に詳しい人が見たら結構すごいことなんだよ。
「――お、おい。いまの動き見えたか?」
「いや、まったく……。というかアイツ、あのフレンを一瞬で?」
「きゃールドルフさん! すっごおい!」
……うん。周囲の冒険者や受付嬢は、俺がやったことをあんまり理解してないみたいだった。気と魔力の対消滅……地味だもんね。
でも! きっとフレンさんならこの技術の妙を……って、ん?
「――ッは、ッは……。わ、私、また……! ご、ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
「ふ、フレンさん? いったい、どうしたん――」
「私また、間違えてしまって……ッ! ルウさんを危険な目にまで! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」
「だ、大丈夫です! 見間違えることなんてよくありますし、さっきの魔法だって怪我一つしてませんし……」
ダメだ、フレンさん聞こえてないみたい……。目から光が消えて、俺に縋りついてくる。
呼吸が浅く早くなって、顔は真っ青だ。どうも様子がおかしいと周りもざわついてるけど、フレンさんは目の端に涙まで溜めて謝り続けてる。
これは、さすがに……。
「フレンさん、すみません。ちょっと失礼、します……っ」
「――!」
よい、しょと。うわっ、フレンさん軽い。ちゃんとご飯食べてる?
「な、なにを……っ?」
「あれ、急に……って、すみません。あそこじゃフレンさんも注目を浴びちゃいますし、個室にでもと」
「こ、個室っ!?」
あれ……。俺の話ぜんぜん聞いてくれないから、気が引けるけど無理やり抱き上げたのに。
なんか普通に意思疎通取れてるなら、下ろした方がいいよね?
「あ、あ!? いえ、いいです、このままで!」
「えっ?」
「このまま! あの、このまま運んで貰えればと……!」
「あ、そうですか? なら……?」
うわ、受付嬢さんたちにメチャクチャ生暖かい視線を向けられてる。すみません、通ります……。
というか、俺一回フレンさんに振られてるし、下手したら怒られるかと思ったのに。この反応、意外と感触悪くない?
――ッいやいや、ダメだって。五年前も、勝手に俺がいい感じだと勘違いした結果振られちゃったんだから。
男女関係において、自分の感覚は信じられない。
ということで、またさっきの応接室に戻って、早々にフレンさんを下ろす。
「あ……」
な、なんでそんな名残惜しそうな声と表情……。っいやいや、だから自分の感覚は信じちゃダメだ。
いまのもきっと、最近ソロで活動してたらしいフレンさんが、人肌に飢えてただけとかそういうことのはず。
気にしない気にしない。
「それで、フレンさん。落ち着きましたか?」
「……はい、本当にすみません。取り乱してしまって」
しゅんと項垂れ、金沙の髪がさらさらと流れる。
髪の隙間から見える顔は、長命種のエルフなだけあって五年前とぜんぜん変わらない。相変わらずとんでもない美人さんだ。
……でも。
なんだろう。こうやって改めて二人で向かい合うと。
――めちゃくちゃ気まずい……。
「……あの。お久しぶりです、フレンさん。さっきはきちんと挨拶できてなかったので」
「そう、ですね。久しぶり、ですね……」
ちらっとこっちを見て、またすぐ顔をうつむけるフレンさん。
俺だってうつむきたいよ。最後の会話、告白して振られた場面だからね。
「えっと。落ち着いたならここ……出ましょうか? フレンさんも私なんかと二人っきりだと――」
「――い、いえ! ふたり……たい、です……」
「え? すみません、いまなんと……」
「その、二人で! お話しが……したいです……!」
うつむいたまま、ぷるぷると小さく震えながら目つむってる。顔も赤い。
か、かわいい……。一度告白を断られてなかったら勘違いしてたとこだ。
たぶん元同僚……旧友として、久しぶりに話がしたいということかな。だったら――。
「この部屋は一時的に借りただけですし、旧交を温めるならまた別の場所で……そうですね。この辺りに昔からあるカフェ、そこで少し話しませんか?」
「――! は、はい、ぜひ!」
おお、食いつきが凄い。フレンさんけっこう生真面目で、友だちもあまりいなかったから……俺みたいな知り合いでも、久しぶりに会えたら嬉しいのかな。
さっきもロビーでもすごい情緒不安定になっていたし、その辺りも店に行ったら聞いてみよう。
「じゃあ、行きましょうか」
「……はい!」
元気がいい。フレンさんこんなだったっけ……?
まあいいか、詳しい話はあとで。
俺たちは応接室を出て、またロビーに戻って支部の外にでようとしたんだけど。
その時。
「あれっ、フレンさん! どこに行くんですか!? 依頼の報告に来たんじゃ――」
「あ……そうでした。すみませんルウさん、少しだけお待ちください。すぐに……ほんとうにすぐ! 話をつけてきますので」
「そ、そんなに気合を入れなくても大丈夫ですよ。私は今日、他に予定ないですし。ゆっくりで――」
あ、行っちゃった。べつに焦って用事を早く済ませなくてもいいんだけど……。まあ、大人しく待とうか。
……む。フレンさん、なにやら揉めている? えらい剣幕で何か言っているけど大丈夫かな。
……。あ、帰ってきた。
「す、すみません……。いまから、未完了の依頼を片づけないといけなくなりました……」
すごい泣きそうな顔だ。そ、そんなにカフェ行きたかった? 俺は嬉しいけど、べつにカフェくらい明日でも明後日でも喜んでついていくのに。
……あ、そうだ。そんなに旧交を温める機会を逃したくないって言うなら。いい、考えがある。
思いついた俺は、すぐに口を開いて言った。
「――フレンさん。良ければその依頼……私もついていっていいですか?」
目を真ん丸にしたフレンさんが、思考がついてこない感じで微かに首を傾げている。
ちょっととぼけたエルフ美人……かわいい。
―――
一見平和に見えますが……。
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