第7話:護衛

 生徒会に入ることになって一週間。

 青空学園生徒会は能力者かつ成績優秀者しか入れないという噂があったらしい。だから無能力者の私が生徒会に入ったことは結構有名な話になった。


 朔がちょっかいをかけてくる生徒がいるのではないかと心配していたが、全然そういうこともなく──。

 流石あの学園長が一人一人面接して選んだ生徒達だ。そういう人達はきっとこの学園にはいないのだろう。むしろクラスメイトには応援されたりして、より生徒会活動にやる気が出た。

 しかし問題なのは、生徒会に入ったのはいいけれど、未来空先輩や篠原先輩とは未だに一言二言しか話したことがないことだ。

 せっかく生徒会に入ったんだから、仲良くなりたいんだけれど……。


「なーに暗い顔してんのさ」

「……まい先輩……」


 私が生徒会の先輩で今のところ仲良がいいのは芥川先輩とこのまい先輩だけだ。美人で優しい同性の先輩──まい先輩。まだ一週間の仲ではあるが、私の憧れの先輩である。そんなまい先輩に私は素直に悩みを相談することにした。


「まだ先輩達と仲良くなれてないなって。特に、未来空先輩と篠原先輩とは……」

「あはは、あの二人とそんな早く仲良くなれたら会長も苦労しないって!」

「はぁ、でも……」

「そんな暗い顔しないの! それこそ、いつもニコニコ笑顔な茉莉だったら、そのうち向こうから話しかけてくると思うよ? 結城さんもバカ輝もそういう子に弱いもん」

「確かに……まい先輩はいつも笑顔ですもんね。私も、まい先輩みたいな素敵な女性になりたいです」

「えっ」


 その言葉を聞いて、まい先輩はパチクリと瞬きを繰り返す。何か私、変なことを言ってしまったのだろうか?

 まい先輩が驚いた顔をしている真意を尋ねようとしたその時、生徒会室の扉が開いた。


「あぁ、桜さん。ここにいたんだ」

「あ、学園長! こんにちは」

「あー! 学園長!! アイス食べよう! このアイス好きだったでしょ? はい、おやつ会始めよ! ほら、茉莉も!」

「おや。それじゃあお言葉に甘えて」


 まい先輩が「いっぱい昨日買い貯めたんだよね」とご機嫌で冷蔵庫を漁る。そして満面の笑顔で最近大流行の生チョコアイスバーを掲げ、ウインクをするまい先輩。


「はい、茉莉。このアイス食べたいって言ってたでしょ?」

「あっ、ありがとうございます!」


 このアイス、朔と近所のコンビニ回っても見つからなかったのに……。まい先輩、やっぱり優しい。うん、やっぱり私も、こんな素敵な先輩になりたいな。


「ほらほら茉莉! あーん」


 まい先輩が私の口の中に生チョコアイスを入れる。口内に一気に広がる苦甘いチョコレートに全身が歓喜に震えた。


「お、おおっ、おいしい、ですぅ……!」

「君達、随分と仲良くなったね」

「はい、まい先輩にはよくしてもらってます!」

「初めての後輩だからつい可愛がっちゃうんですよー!」

「そうか。丁度よかった」


 丁度よかった? 学園長の言葉に私は首を傾げる。


「万が一のことがあってはいけないからね。今後、放課後は生徒会のメンバーと必ず行動を共にしてもらおうと思っていたんだよ。だから、君達が仲良くなってくれて安心したよ」

「待ってください。それってつまり、護衛ってことですか……?」

「そうだね。学園長として、君を一人にさせるわけにはいかない。何かあってからじゃ遅いからね。それが目的で君を生徒会に入れたのだし」

「……、」


 護衛。その、日常とは程遠い言葉に私は俯いた。まだ正直あまり実感がない。自分が仲介者だということに。

 本当に、私なんかを狙ってくる悪い人達なんているの? 今までは何事もなかったし、そんなことしなくても……という気持ちだってあった。だけど、学園長の表情は真剣だ。これから、私の行動は制限されてしまうのかな。これから、一体どうなってしまうんだろう。

 色々不安になる私にまい先輩が頭を撫でてくれる。


「大丈夫、大丈夫。先輩の僕がしっかり守ってあげるからね」

「まい先輩、」

「それに僕らは茉莉のボディガードってことでしょ? なんだかカッコいい響きじゃない? 僕、そういう洋画とかいっぱい見てるから憧れてたんだよね」

「せ、先輩! ボディガードだなんてそんなの、私にとっては申し訳ないです! 私はなるべく部屋で大人しくしているのでボディガードなんていりません」

「えー! そんなのつまんないでしょ? 糞みたいな奴らのせいで茉莉の自由が奪われるなんておかしいよ!」

「その通り。私も桜さんにはせっかくの高校生活を楽しんでほしい。だけど、念のために小鳥遊君でも篠原君でも芥川君、輝でもいい。とにかく一人にならない事。いいね? ──まぁ、人間の欲っていうのは油断できないからね。本当に万が一のためだよ」

「茉莉! 他の男じゃ頼りないって! 僕が一番茉莉を楽しくさせてあげるし! だから僕がこれから茉莉のボディガードね! ね!? ね!?」

「でも、」


 その時、まい先輩が私の唇を人差し指でつんと抑える。整った顔がずいっと目の前にきて、私の心臓がドキリと踊ったのが分かった。


「じゃあ、こう考えて? 僕が茉莉と一緒にいたい。だから、一緒にいる! これならいいかな?」


 ど、どうしよう。ついときめいてしまった! まい先輩は憧れの女の人! 落ち着け、私!

 必死に自分にそういい聞かせながら、熱い頬を冷ますように私は残りのアイスの欠片を口に含んだ。

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