何も知らなくていいのに。
スルメイカ
第1話
''ねぇ知ってる?3年B組の藤本大樹くんって人が、学校で1番可愛い加納雛奈ちゃんに告白したんだって!''
この噂が囁かれ始めたのは、卒業を控えた高3の3学期の頃だった。藤本大樹の特徴と言えば…至って普通かな…?勉強もスポーツも人並みって感じ。友達も少なく、いつもクラスの隅っこで数人の冴えない友人と談笑しているくらいだ。文化祭や体育祭、学校の行事にも積極的な方ではなかった。
…そもそも、この''噂''自体おかしいのだ。第一、藤本くんと加納さんには接点がなかったと思う。クラスは同じだけど、話している所を見たことがない…という訳ではなく、藤本くんはこの3年間、加納さんと同じクラスになったことがないのだ。ちなみに加納さんは部活には入っておらず、藤本くんは写真部…?よく覚えてないけど文化系の部活に入っていたのは間違いない。
とにかく!この2人には''接点''がないのだ。
私は、藤本くんが加納さんに告白した事を疑問に思い、周りの人間に聞いて回ることにした。
藤本くんのクラスメイトであり、仲の良い友人である真鍋裕二くんに話を聞いてみた。
「そりゃあ、加納さんは有名だから…なにせ学校1の美少女だからさ。藤本だって''一方的ではある''と思うけど加納さんのことは知っていたと思うよ。藤本は3年間、冴えない毎日を僕らと一緒に歩んできたんだからさ。卒業前に密かに想いを寄せていた加納さんに告白してみたんじゃない?」
私は真鍋くんの回答に対して、藤本くんを気持ち悪いと感じてしまった。同じクラスにもなったことない、同じ部活でもない''接点のない''女の子に普通告白する?加納さんも可哀想だなぁ…話したこともない、顔見知りでもない冴えない男に''好きです''なんていきなり言われたら。
''興味のない人間に寄せられる、一方的な好意ほど気持ちの悪いものはないと私は思うから''
次に、加納さんと一番の親友であると言う伊波広瑛さんに話を聞いてみることにした。
「雛奈モテるからねぇ…別におかしな話じゃないと思うよ。冴えない男子が夢見ちゃうのも仕方がないくらいにね」
伊波さんはそう言って目を細める
「だから分からないのよ。藤本とかいう陰キャが雛奈に告ったって言う話が、学校中で話題になっているのがさぁ…」
そう言って伊波さんは「いくらでもそんなやついるっての」と言い放った。
確かに、伊波さんの言う通りだなぁって思う。加納さんは色んな男の子からモテまくってるわけだから、そんな話いくらでもあるって言うのに…
「まぁでも、雛奈も藤本の事知らなかったみたいだし。キモかったんじゃない?」
…まぁ、それにしてもだけど。
''何故話題になっているのか?伊波さんの言う通りならそこまで大した話題にならないだろう''
最後に、加納さんの幼なじみだという三島朱里さんに話を聞いてみることにした。
「あー、それねぇ…」
三島さんは歯切れの悪そうな顔をして語り始める。
「それ、多分''デマ''だと思うよ。なんて言ったって、告白したのは雛奈ちゃんからだから」
…嘘でしょ?学校1の美少女である加納雛奈が藤本大樹に告白した…?
驚いている私を横目に三島さんは話を続ける。
「私もよく分からないけど、そういう事。ほら私さ、雛奈ちゃんと同じクラスでしょ?幼なじみだけどグループは違くてさ…たまたま雛奈ちゃんが''B組の藤本くんに告白する''っていう話を耳にしちゃってさ。盗み聞きしちゃったのは悪いと思うけど、この話はあまり他の人に言わないで欲しいな」
そう言って三島さんは笑みを浮かべた。
私は三島さんの話をにわかに信じられなかった。加納さんが藤本のことを知っている、それだけでも驚きなのにまさか''好きだった''なんて…本当にそうだろうか?
''人は自分に無いものを求めているのだろうか?人気者の加納さんは地味で冴えない藤本くんに惹かれたのだろうか?''
翌日、学校でこんな話が話題になっていた。
''3年B組の藤本大樹が自殺した''と。
そしてそれは事実であり、朝の会でも担任の先生に説明された。
''なるほど、そういう事か''
私は一連の流れで何が起きたのかを理解した。そして昨日、私が話を聞いた3人の中に''嘘''をついている人間がいることも。
''伊波広瑛は私に嘘を付いていた''
「だから分からないのよ。藤本とかいう陰キャが雛奈に告ったって言う話が学校中で話題になっているのがさぁ…」
「まぁでも、雛奈も藤本の事知らなかったみたいだし。キモかったんじゃない?」
この言葉が嘘なのだ。
3人が私に話した事を振り返ってみよう。
真鍋くん曰く、加納雛奈は男子全員の憧れの的。だから藤本くんが告白してもおかしくないと言った。
この発言から察するに、真鍋くんは何も知らないのだろう。
三島さんは、加納雛奈が藤本くんに告白するという旨の話を聞いたと言った。そして、この事は誰にも言わないで欲しいと私に釘を刺した。
「誰にも言わないで」という発言から、三島さんは''嘘を付いている''とも捉えられる。しかし、加納雛奈と三島さんは仲良くない。そして、加納雛奈は言うまでもなくスクールカースト上位だ。
わざわざ彼女を敵に回すような発言を、私にするだろうか?私はそうは思えなかった。
そして最後に、伊波広瑛。こいつは加納雛奈の親友だ。加納雛奈もしくは伊波広瑛にとって''都合の悪い事''があったのなら、充分に嘘を付く可能性がある。
おそらく伊波は加納と共に、藤本くんの事をいじめていたのだろう。
三島さんは「加納雛奈が藤本大樹に告白する」と盗み聞きしたからだ。おそらくこれは、藤本くんの想いを踏みにじった発言なのだろう。
''私の推理が正しかったかどうか、伊波広瑛に直接聞いてみようか''
「やめてよ…お願い、こんなことしても何にもならないって!」
あー、うるさい。クズの命乞い程、醜いものはない。クズって自分に都合が悪いことが起きるとすぐ泣いて喚くよね、藤本くんをいじめていた時は笑って止めもしなかったくせに。
「私…私いじめられてたの!あの女に…!!加納雛奈にいじめられていたの!」
伊波は涙と鼻水でぐちゃぐちゃに顔を濡らしながら私に訴えかけてくる。
「雛奈が私をいじめるから…ほら!私と雛奈と同じクラスの伊勢ってやついるでしょ?イケメンの!彼が私に告白してきて、それで…それで!雛奈も伊勢が好きで…それで!ッッッ痛い!」
ブスがほざくなよ。お前みたいなブスがイケメンで背が高くて、誰にでも愛想のいい伊勢くんに告白される訳ないだろ。そもそも、お前が虚言癖なことぐらいもう分かってんだよ。
私は伊波の指をハンマーで砕いた。彼女は痛みに耐えかねたのか、これから''殺される''という恐怖からなのか、失禁していた。
あー…気持ち悪い。臭くてブスで醜くて…おまけに性格まで腐ってる。うん、死んだ方がいいよね。お前みたいな誰にも愛されないようなクズ、生きてても意味ないよ…
結局、この様子だと伊波は加納にいじめられていたのは本当だろう。あ、いじめられているって言ってもパシリみたいな存在だと思う。
ほらさぁ…(笑)伊波ってブスで性格腐っててスタイルも悪いでしょ?だから加納にとっていい引き立て役だったんじゃない?伊波はブスなんだからさ、加納のパシリになっただけでもありがたいと思いなよ(笑)
それなのに身の程知らずというかなんというか…その立場に嫌気がさして、自分以外にいじめの対象が欲しくなっちゃったんだろうね(笑)あ、伊波はブスだからさ!ほかの女子をいじめの対象になんてできないもんね!だって伊波ってすっっっごいブスでキモくて性格終わってるもん!かわいそ〜(笑)
伊波って学校で一番の''底辺''だもんね(笑)
だからって藤本くんを犠牲にしたのは許さないけど
「そもそも!!!あんた誰よ!!!!何も知らないくせに、首突っ込んで来ないでよ!!!!!」
''こいつはもういいや''
伊波の顔を見るだけでも、いや…声を聞くだけでも吐き気がしてくる。気持ち悪いからさっさと消えてもらうか。
私は彼女の脳天にハンマーを思いっきり下ろした。
「ッッ痛い…!!」
さぁ、次は加納の出番だ。死んだ伊波の代わりに全てを話させて貰おうか。
「離せよ!!!!なんだよお前、誰だよ!!こんな事して許されるとでも…ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァァ!!!!」
私は伊波を殺したハンマーで、加納の脛を思いっきり叩きつけた。
うっさいなほんとに。私は藤本くんのことが知りたいの。あんたの命乞いなんて聞いてないのよ、分かったらさっさと話して貰わないと…
「なに…?何が目的なの?!お金が欲しいの??それなら…ッッヴ」
私は加納の溝落ちに、ハンマーの持ち手を押し込んだ。
「藤本の事なんて、、私、知らない…てか、伊波が、原因で…」
加納は痛みに慣れたのか、呼吸が落ち着いてきたように見える。
「…そもそも、あんた誰??私、あんたの声に聞き覚え、ないし。てか、そもそも…うちの、生徒??あんた誰よ!!!」
あーあー、うっさいなぁ。私は藤本くんの事について聞いてるの。こいつ日本語通じてる?大丈夫かなぁ。てか、話すつもりがないなら殺しても問題無いよね。
「っっ?!ちょ、やめっ…!!」
私は伊波と同様、加納の脳天にハンマーを振り下ろした。
は〜あ、伊波も加納も呆気なかったな〜。しょーもないしうっさいし臭い。あんな奴ら死んで正解だよ。
''私の名前は藤本芽依''
正真正銘、藤本大樹の姉だ。加納と伊波は、私に対して''あんた誰よ!!''とかほざいてたね。そりゃ知らないよね。私、あなた達の高校に通ってないもん。
私の大好きな弟、藤本くん。私と彼の関係は、普通の姉弟の関係とは違う。
私は彼のことが好きなの。下の名前で呼ぶなんて、恥ずかしくて出来ない…///
だから許せないの。あんなクソみたいな奴らに藤本くんがいじめられて、自殺して。
それなのにあいつらと来たら…意味のわからない言い訳をしたり、私の事について聞いてきたり。
''私の事なんて、知らなくていいの''
だって私は、もうこの世に居ないから。
私の事なんてどうでもいい。
藤本くんがこの世界に存在していてくれればそれでいい。
藤本くんが幸せなら、私が居ない世界でも意味があった。
だからもう、この世界に意味など存在しない。
何も知らなくていいのに。 スルメイカ @LIP_iqos
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