秘め事、あるいは幼少の軽やかなる飛翔
一卵性双生児。
彼らは、一つの受精卵が細胞分裂して発生した。姉は津々、妹は浦々という。
と言っても、この順序自体が不可視のルールに囚われている。どうして津々が姉で、どうして浦々が妹なのか、説明できる者はいまい。母の意向は自然分娩であったが、非常に困難だったため帝王切開に移行した。医師の話では、二人は胎内で互いに抱き合っていたそうだ。まるで一人の赤ん坊のように。それを無理やり引き剥がして、先に取り出したのが姉の津々だ。彼女は泣かなかった。浦々が母の身体を離れるまで、一人では決して泣かなかった。
「可愛い。顔を見合わせて眠ってる」
我が子を見た母親は、震える手で彼らを撫でた。赤ん坊には視力がほとんど無いことも、自力では寝返りが打てないことも知っていたが、そんなことはどうでも良かった。父親も同意し、パシャパシャとカメラのシャッターを切った。一度に家族が二人増えたことは、両親にとって喜ばしいことだった。
双子自身はそう思っていないことなど、彼らは知る由もない。
「う……らぁ……う?」
「つっつ!」
放っておくと、互いに這い寄っていく子供だった。初めて喋った言葉は、ママでもパパでもなくウラウラとツツ。名前を呼び合ってじゃれ合う様子など、写真好きの父親には格好の被写体であった。
「この子たち、また一緒に眠っているよ」
「近くにいないと落ち着かないのね」
「ママより姉や妹が好きなんて変わってる」
「そう? 私は姉さんのこと好きだったわ」
「それとこれとは話が……、まあいいか。仲が良いのも今だけかも知れないし、たくさん写真撮っておこう」
「いつまでも一緒で居てほしいけどね。この子たちは、二人で一つなんだから」
母の想いを知ってか知らずか、小学校に入学しても彼らは仲の良い双子だった。友達にからかわれても、先生の言うことがつまらなくても、姉妹一緒なら耐えられた。
しかしこの年齢になってくると、互いにちょっとした違いを見つけられる。外見はほとんど同じ二人だが、姉の津々は食べるのも書くのも右利き、浦々は投げるのも蹴るのも左利きだった。言葉を覚えるのが早かったのは浦々のほうだが、運動が得意なのは津々だった。彼らはそれが気に入らなかった。違いがあることが許せなかった。
だから、一つになろうとした。
真っ暗な部屋に布団を敷き、服を脱いで横たわる。
「じゃあ、いくよ浦々」
「うん、いいよ」
身体をぴったりと重ね、相手の口を自分の口で塞ぐ。二人で一つの円を作る。
この遊びは保育園で思いついた。どちらの提案か忘れたが、なんて素晴らしいアイデアだろうと感嘆し、今の今まで続いている。
ここまで濃密に姉/妹を感じられる体験は他にない。そのうち血管と血管が繋がって、一つの生命として循環をはじめるんじゃないかという期待が、彼らを突き動かしていた。最近は舌を合わせることも覚えた。ドロドロに交じり合えば交じり合うほど、溶けて一つになる可能性は高い。酸欠で頭がぼーっとしてくると、いよいよその時が近い。天国の扉に辿り着いた二人は、ノックして神に願うのだ。どうか、私たちを元に戻して――二人を一人に戻してくださいと。
真っ暗だった部屋に、突如として光が灯る。
汗にまみれた二人の幼い肉体が、隅から隅まで露わになる。
両親の青白い顔を見て、彼らは失敗を悟った。
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