一つになろうとした双子

鹿条一間

導入、あるいはルール説明をしないことに対する弁明

 「この世界にはルールがある。


 抵触したが最後、問答無用で殺されたり不幸になったり、逆にとんとん拍子で事が運んだりしてしまう。身に覚えがあるだろう、『どうして自分だけ』ってやつだ。そこには理屈も根拠も何もない。成り立ちも知らずに覚えた数学の公式みたいに、『そういうもの』と呑み込むしかない。


 そしてもっと残念なことに、君がそのルールを知る術はない。喩えるなら、自分の能力もHPやMPの量も知らないまま、RPGの世界にぶち込まれるようなもの。


 つまり、そう、あなたの人生みたいなことだ。比喩になっていなかったね。


 じゃあ、坊主めくりは知っているかな。百人一首を裏向きにして二つの山札を作り、一人ずつ順番に引いていく。引いた札は自分の手札になるけれど、坊主が出たら全て没収。姫を引いた人がそれを奪取する。最終的に手札が多い人が勝ちなのだが……ずいぶん理不尽なルールだね。


 人生もこれと同じ。引いて表を見るまでは、何が起こるか分からない。どちらの山を引いても坊主しか出ない可能性もある。それでも選ばなければならない。君は選ばなければならない。


 もし、坊主を引いたというそれだけの理由で君が殺されたとしたら、私の話していることが現実になったと思ってほしい。ルールはそうやって発動するんだ。他愛もない遊技に紛れて、些細なきっかけを端緒として。


 山札が二つ。人間も二人。


 今日はひとつ、ある双子の話をしよう。名前は……そうだな、津々つつ浦々うらうらとでもしておこう。こういう話は津々浦々、どこにでも転がっているものだから」


『あ、坊主だ……』

『わたしは姫だよ。もーらいっ!』

『ずるい!』

『しょうがないでしょ、津々は坊主だったんだから』

『なんで坊主を引いたら駄目なの?』

『…………』

『ねぇ』


「私が語るのは、このルールを蒐集した経緯のみである。ルールそのものは、何人なんぴとたりとも語り得ない」

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