第26話
門野たちが張った結界は範囲だけでなく強度も十分に保たれていた。内側から出ることは出来ず、外部からの攻撃で壊れることも無い。
山神は怒鳴り声で門野に問う。
「お前…何をした!!」
「己の精神、力を自分で制御してしっかり結界を張る。陰陽師として基本です」
陰陽師の張る結界の中は妖者、特に邪な者にとって過ごしやすい空間なわけがなく山神は辛そうに顔をしかめた。苦しそうに息をしている。
「何かを恨むのにも疲れたんじゃありませんか?長い長い時間恨みを持ち続けて自分自身が怨念になってしまった…それさえも恨んでいるんじゃないですか?」
山神はうるさい、うるさい、黙れと耳を塞ぎ門野の言葉を聞こうともしなかった。
「もう終わりにしましょう。楽になるべきです」
木陰からその様子を見ていた安倍は目を疑った。
地面に五芒星を描きちょうど真ん中に立つ門野。
ポケットから小さな刃物を取り出すと自分の左手を切りつけた。ざっくりと切れ滲んだ血が一滴落ちた。指2本を口元に立てて唱える。
「我が門野の血において影なる者に命ずる。闇より出ずる者を連れ帰りたし」
その瞬間、突如として突風が巻き起こり山神は地面に開いた穴に落ちていった。
同時に目を突き刺すような眩しい光が山一帯を包みその場にいた全員が目を瞑る。
その後の静かさに目を開けると、山神が落ちていったはずの穴は跡形も無く消えていた。
急に全身の力が抜けて座り込む門野を見て、木陰から安部が駆け寄って来た。
切った左手を上に持ち上げてハンカチで強く押さえている。
「なんだか不思議ですね…安倍さんにこんなことしてもらう日が来るとは思いませんでした」
それはこっちの台詞だよ、と返す安倍。
安倍の側にいた三月も心配してるかのように覗き込んだ。
「三月、坂東さんと他の式たちに下に降りて待っててもらうよう伝えてくれないかな?休ませてあげられず悪いな」
「いえ、問題ありません。言伝を伝えてきます」
そう言って三月はまた姿を消した。
今度は安倍がふふ、と笑みを溢す。
何ですかと言いたげな目線を門野は送った。
「いや、君も成長したなと思って。私よりよっぽど優秀なら陰陽師になった」
安倍はおもむろに門野の頭に手を乗せて笑った。
「うちに来たときはまだ小さかったと思ってたのに、まさかこんな立派になるとは思わなかったよ」
「…それもこれも安倍さんが教えてくれたからです」
生きててくれてよかった、と呟く。
「晴道に言われて自分でも考えたよ。自分1人でどうにかしようとすると答えは1つしか無いように思える。人間は1人じゃ生きていけないんだから誰かに話してみればよかったのにって」
「次また何か危機に直面したらそうしてください。私でよければいつでも話聞かせてください」
安倍はそうだなと笑って立ち上がった。
ゆっくり門野も立ち、2人でみんなが待つ下山場所へと向かった。
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