第6話 お空に行ったあの子

あの一軒家では、いろんなことがあった。

もう何十年も前に住んでいた家だから、忘れてしまった体験もある。思い出したときにまた書こうと思う。


その家から、新築のマンションに引っ越した。

部屋は三つ、広いリビング、とても綺麗なマンション。


一軒家にいた頃、私は四匹のポメラニアンを飼っていた。みんな、今はもうお空に行ってしまった。とても可愛い子たちだった。


ある日、ソファーに寝転がってテレビを観ていたときのこと。


チャッチャッチャッ


犬の爪音が聞こえた。


「おいでー」

私は何の気なしに手を差し出した。


そのとき、視線の先に見えたもの。


首のないポメラニアンが、こちらを見つめていた。


「え?……あ!」

そうだ。うちの子たちはもう空にいるんだった。


首はないのに、私はなぜかすぐに分かった。

この子は、うちの子だ。


私の手の少し先で立ち止まる、その姿。

触ろうと手を伸ばすと、ふっと消えてしまった。


せめて、撫でさせてほしかったな。今でもそう思う。


だけど、不思議でならない。

なぜ首を置いてきたんだろう?


いつか会う日が来たら、どうか首をちゃんと持ってきてね。

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