第26話『記者の夢日記:あかるいよる』

2025年4月14日 深夜~早朝

自宅にて


01:30 就寝前のメモ

調査を始めて1ヶ月。

疲労がピーク。

でも眠るのが怖い。

最近、毎晩同じ夢を見る。

今夜は録音してみる。

寝言を記録するために。


夢の描写(詩的文体)

あかるい

まぶしいくらい あかるい

でも たいようじゃない

やさしい ひかり

 

みんなが いる

ちいさな こどもたち

てを つないで

わらになって

 

あるいていく

どこまでも

ひかりの なかを

 

せんとうに だれか いる

おおきな め

やさしい かお

ゴッドちゃん

 

「おいで」

「みんなで いこう」

「もう こわくないよ」

 

あるきだす

みんなと いっしょに

てを つないで

 

きもちいい

あたたかい

しあわせ

 

でも

 

うしろを みると

くらい

まっくら

 

もどれない

もどらなくていい

まえに すすむだけ

 

「だいじょうぶ」

ゴッドちゃんの こえ

「みてるよ」

「ずっと みてるよ」

 

そして きづく

 

みんなの かおが ない

めだけ ある

おおきな め

ゴッドちゃんと おなじ め

 

こわい?

いや ちがう

 

これが ただしい

これが あるべき すがた

 

わたしの かおも——


03:14 目覚め直後の手帳

(震えた字で)

夢を見た

子供たちが 光の中で 行進して

神ちゃんが 先頭で 導いて

 

私も いた

その中に いた

一緒に 歩いていた

 

怖くなかった

むしろ 安心した

帰りたいと 思った

 

帰る?

どこへ?


03:20 録音確認

寝言が入っていた。

「はい」

「わかりました」

「いきます」


誰かと会話している。

でも、相手の声は入っていない。


いや、待て。


音声を増幅すると、

かすかに聞こえる。


「おぼえてる?」

「やくそくしたでしょ」

「もうすぐだよ」


子供の声。

優しい声。


でも、私の声じゃない。

確実に、別の誰か。


03:45 手帳への走り書き

(字が徐々に変化していく)


夢の中の顔のない子供たち


あれは 誰だった?

知ってる顔のような 気がする


なっちゃん?

ヨシオさん?

カズミさん?

 

いや ちがう

 

もっと ちかい ひと

もっと たいせつな ひと

 

○○ちゃん

 

(ここで文字が子供のように丸くなる)

 

たすけてくれて ありがとう

もうすぐ あえるね

やくそく おぼえてる?

おとなに なったら って

 

もう おとなだよ

だから いいよね

だから きても いいよね


04:00 完全に目覚める

手帳を見返す。


最後の部分、

私が書いたとは思えない。

でも、私の筆跡。


「たすけてくれて ありがとう」


誰を助けた?

いつ?

どこで?


記憶にない。

でも、体が覚えている。

確かに、何かがあった。


04:30 最後の記録

あの夜は、

やさしくて、

すこしこわかった。

 

でも また いきたい

あの ひかりの なかへ

みんなと いっしょに

 

それが ただしいと

なにかが いっている

 

わたしの なかの

ちいさな こどもが

 

「いこう」

「みんなの ところへ」

「ゴッドちゃんが まってる」

 

朝になったら、

この恐怖も忘れるだろう。

いや、恐怖じゃない。

これは——

郷愁だ。

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