第16話『見覚え』
記者の調査記録
2025年3月28日 深夜
自宅にて
資料整理3日目。
机の上に広げた神ちゃんの初期デザイン案。
天川ひかり氏が最初に描いたラフスケッチのコピー。
1989年3月の日付。
まだ目が小さく、普通の子供らしい顔。
これを見ていて、手が止まった。
この顔、どこかで——
1989年、私は9歳だった。
確かにどこかで見たことがある。
この髪の形。
この笑顔の角度。
額の星形のマーク。
……星形?
なぜ私は、これを「懐かしい」と感じるのか。
スケッチをスマホで撮影。
画像検索をかけてみる。
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当たり前だ。
これは出版前の原画。
公開されたことはないはず。
でも、私の中で何かが言っている。
「知ってる」と。
実家に電話した。
母に聞いてみる。
「ねえ、私が小学生の頃、『コドモジャック』って雑誌読んでた?」
「……何それ? 知らない」
即答。早すぎる否定。
「神ちゃんって——」
電話が切れた。
かけ直すと、
「ごめん、忙しいから」
それきり出なくなった。
引き出しを探る。
昔のアルバムがあったはず。
小学校時代の写真。
1989年のものもある。
小学3年生の私。
写真の中の私の部屋。
本棚にいくつか本が見える。
ズームして確認。
月刊——
そこだけ、なぜかぼやけている。
他の部分ははっきり見えるのに。
もう一度、初期デザインを見る。
神ちゃんの顔。
まだ大きくなる前の、普通の目。
なぜだろう。
涙が出そうになる。
懐かしくて。
会いたくて。
……会いたい?
誰に?
ラフスケッチの隅に、作者のメモ。
「夢で見た子」
私も夢を見たことがある気がする。
窓の外に、誰かが立っていて——
いや、それは違う。
それは今朝見た夢だ。
でも、今朝の夢の中の子供の顔。
このスケッチと——
同じ?
気のせいだ。
疲れているんだ。
調査のしすぎだ。
でも、手が震えている。
このスケッチを見ていると、
誰かが呼んでいる気がする。
「おぼえてる?」
「まってたよ」
「やっとみつけた」
声は、聞こえない。
でも、確かに「聞いている」。
ノートに書き留める。
「これは、昔どこかで見たことがある」
「たぶん」
「気のせいかもしれない」
「でも確かに」
書いている自分の字が、
だんだん丸くなっていく。
子供みたいに。
「みたことある」
「しってる」
「あいたい」
……これは私の字?
深夜2時。
まだスケッチを見つめている。
神ちゃんの顔が、
少しずつ変化している気がする。
いや、変化していない。
「思い出している」んだ。
本当の顔を。
最初から知っていた顔を。
まるで、……いや、それはちがうか。
でも——
「おかえり」
と言われた気がした。
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