『任務:インキュバス退治!』②


「!?……危ない!椿さん!」


 僕が危ないと思いそう叫んだのと反対に、椿は全く驚きも怖がりもせずに、僕にこう言った。


「青斗くん、君の能力……目に入れてももう痛くないほどに強くなったんだよ?使ってごらん……変幻自在の植物を」


 椿は珍しくニヤリと微笑みながら僕にそう言った。


 修行の結果、僕は植物の大きさを自由自在に変えることができるようになった。だから、僕は草をこんなふうに扱うこともできる。


「い、行きまーす!」


 僕は、椿に襲いかかっているインキュバスの元にとても大きなハエトリ草を出すと……パクッとインキュバスが頭から喰らわれていた。


「さすがだね、青斗くん。君は……努力できる人だから、やっぱりこうして見せてくれると思っていたよ」


 そう椿は、「褒めて遣わす」と言いながら僕の頭をポンっと優しく叩いた。


「あとね、もう、そろそろ出してやらないと……インキュバスの皮膚が全て溶けて、筋肉が丸見えになると思うんだ、一応話くらいは聞いてやらないとダメだからね?」


 そう言いながら椿はパカっとハエトリ草の口を無理やり開けさせた。ハエトリ草……しばらく時間置かないと消えないからな。


 助け出されたインキュバスは幸いにもドロドロに溶けたわけではなく、少し火傷のような傷がある程度だったが、すっかり伸びていた。


「任務終わったんだ、ありがとう。青斗くんに椿さん」


 相変わらずバニーガール衣装を着たルシウルしめ縄型の中から現れた。ルシウルは気絶しているインキュバスを一瞥してから、椿の方に向き直り


「ということで、日本に現れたインキュバスの討伐はこれで完了。どうやら、ずっと前にはインキュバスは二体いたらしいけど、あと一体は人間に殺されたらしいわね」


 ルシウルが淡々と依頼完了ということを書類に記していると、インキュバスはピクリと少しだけ動いた後、ムクリと起き上がり、


「……父さん」


 ……そうポツリと言った。


「お前らも俺のことを父さんと同じようにする気か?」


 インキュバスの目は海より深い悲しみと、自分がこの後どうなるのかという不安を抱いた瞳をしていた。


 ――――――――――


 俺は父さんと一緒に日本に住んでいた。アメリカでは銃が浸透していて、日本の数十倍は危険なところだという父さんの判断だった。


 父さんは俺にインキュバスとしての生き方や、日本で最適な隠れ家などを色々と教えてくれた。日本での生活はとても楽しかった。たとえ、数日間食べ物がなくてお腹を鳴らしていても。たとえ、家が無くて、ボロボロの家とも呼べないところで住んでいても。俺はやっぱり父さんとの生活で苦しさは感じなかった。


 それでも……たとえ、たとえ日本でも危険なことが全く無いというわけではなかった。


 ある一軒家に父さんは入った……それが運の尽きだったと今となれば分かる。人と、父さんは人と出会してしまった。女の人と、屈強な体の男が一人。多分、あの二人は家族だったんだろう。


 逃げようとした父さんに、パニックを起こした男は父さんを捕まえて、何度も何度も殴りかかった。父さんが気絶して、顔ももうぐちゃぐちゃになったとしても。


 しばらく経ち、男が父さんから離れた時、父さんはもう息をしていなかった……とても恐ろしかった。現実では無いと思いたかった。でも、結局それは夢では無くて現実だった。


 顔がボコボコになって、周りに血を撒き散らした父さんが床に静かに眠っていた。息をせずに眠っていた。


 だから、俺は人間が嫌いになった。


 ――――――


 インキュバスがやっと目を覚ますと、目の前ではこのインキュバスを売るか売らないかという物騒な言い合いをしているルシウルと椿がいた。


 ……物騒すぎるだろ。売ることを勧めるルシウルの意見は、死神間で実験として使用する者も沢山いるから、給料が倍になったような金額をもらえるということらしい。


 その時、今まで気絶していたインキュバスはパチっと目を開いた。辺りを見渡し、そして今までのことを思い出したかのように距離を取った。体はもう脅威的な回復力で治したらしかった。


「インキュバスさん?君のことをどうしようかルシウルと話し合ったんだ。君は死神のペットにするか……それとも、ボクのペットになるかどうする?」


 椿はインキュバスににじり寄りながら、インキュバスにそう話しかけた。


「君のことは悪く使う気はないよ。ただ少しだけ、すこーしだけ残飯を一緒に処理して欲しいんだ。ね、悪くはないでしょ?」


 インキュバスは、ただ静かに息を呑み、言葉を失った。

その瞳には、恐れと……ほんの少しの迷いが揺れていた。

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night heroes〜夜の平和を守りし者たち〜 ねこすけ @iloveyoumetoo

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