灰色の告白

@x_user

序章

深夜の居間で、テレビの赤いテロップが点滅していた。不意に受話器が鳴る。受話器の向こうで刑事が息を切らし、俺の名を呼んだ。

「押尾、来てくれ。君の関係者だ」

俺の名は押尾。しがないフリーライターだ。その夜、俺は警察に取り調べ室へと呼ばれた。

逮捕されたのは相沢一(あいざわ はじめ)。三十代半ば、街の目には「どこにでもいる男」としてしか映らない類いの顔をしていた。だが現場に残されたものは図らずも彼を指していた公園に放置された遺体、近くに落ちていた粗い現像写真、血のついたハンカチ。警察は写真の人影を解析し、相沢の公園への出入りが確認されたと判断した。報道は迅速に、単純にまとめる。必要なのは「誰が」であって、「なぜ」ではない。

取り調べ室で相沢は、どこか浮遊した笑みを浮かべて俺を見た。そして言った。

「俺だけじゃない。あの夜、他にもいた。名前は言えない。でも、俺は話すつもりだ」

その笑いは空洞で、罠の起動音のように冷たかった。

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