祝福の鐘は鳴らない

満月 花

第1話

ーー祝福の鐘は、鳴らなかった。



親友が、俺も年貢の納め時

と照れながら報告して来た。


大学からの親友、陽キャでちょっとチャラい男

そんなんだからモテて来た。


お前が結婚とか言ったら

泣く女いっぱいいるな、と言えば


かもな、とあくどくニヤリと笑う


散々女泣かせて来たな、と言えば


まぁ、声かけたら乗ってくる女なんだから合意でしょ


と親友は笑う。


確かに暴力や薬使うわけではない。

ちょっとだけ口がうまい。


水が流れる如く、甘い思わせぶりな台詞が口から出る奴なんだよな、

お前は。


俺もお前に見向きもされなくなった女の子のフォロー大変だった。


そう文句を言えば


何言ってる、そうやって美味しい思いもして来たって聞くぞ

お前の方がワルだ。

と言い返された。


俺たちは、そういう意味で有名だった。


女を取っ替え引っ替えする男と

そのおこぼれでうまい事する男


あいつらに近づくな、という噂も立てられた。


まぁ若気の至りだと親友は笑った。


お相手の女性を興味深々で聞いてみる。

相手は若くて可愛い実家も太い

メロメロだ

あいつが。


結婚式は盛大にするからよろしくな

長年の付き合いということで大学時代の招待客と余興の幹事を頼まれる。


さぁ、親友(悪友)の幸せの門出だ。

盛大に思い出に残る素晴らしいものにしないと。


ありとあらゆるツテを伝って大学時代の知り合いをリストアップ。

恩師や音信不通の友人、サークルの仲間

その中でも親友にゆかりのある人達を選び出し

楽しいエピソードと共に盛り上げに賛同してくれる人と

打ち合わせをする。


準備万端、余興楽しみにしとけよ!

と胸を張って報告。


親友も気合いの入った俺に感謝する。


若気の至りの大暴露大会も予定してるから!と告げると

盛り上がるなら大歓迎だ、と笑ってたっけ。




結婚式当日

愛らしい新婦の横で少し緊張気味の親友。

あんな真面目な顔初めて見たぞ、と吹き出しそうになる。

新婦側の親族を見ても何やら大層な肩書きが並ぶ。

こりゃ逆玉の輿だな、上手いことやったな

と感心する。


こういう抜け目ないところもある奴だった

力のある教授に気に入られるの上手かった。

しっかりとアイツの勤め先のお偉人達も招待してある。



祝福に包まれ今人生で一番の幸福の時間


さて宴もたけなわ、ここは一発かましますか!

親友に親指を立てて笑顔を向ける。


余興が始まる。


そう今日最大の目玉である、大学時代の有志による余興が


女の子が五人

歌を歌い幾重にも重ねた布でダンスを舞う。

新郎のアイツも手を叩いて喜んで聞いている。


結婚、おめでとう!!



と共にモニターを手で示す。


その言葉と共に映し出されたのは



チャラい親友が遊んで食い散らかした女に対して

送ったメッセージが重ねて映し出されている。


無責任な返答

卑猥な誘い文句

脅すように追い込んでいくメッセージ。


どの文にも

誘いに乗って来たお前が悪い

これは合意の上の関係




過去にチャラい男が遊んで捨てた

女達が一列に並ぶ。


彼女らは男の非道を訴える


妊娠したと相談したら、嘘つきメンヘラ呼ばわりされた。


何股もかけられた事を問い詰めらたら、楽しかっただろ?

と鼻で笑われた。


乱交に誘われ、逃げ出したら、ノリが悪いと怒られた。


昼夜問わず呼び出されて、大学を留学退学して夢が叶わなかった。



参列者の視線が集まる中

彼女は顔を強張らせながらも震える声で言葉を続けた。


内容の生々しさに空気が凍る。


司会が、スタッフが何とかこの場を納めろうとする。


親友が、慌てて

これは合意だ、遊びだ、若気の至りでーー



捨てられた女の1人が手の中でカチリと音を立てる。


「は?マジだと思ってたわけ?」

ーー女の泣き声

「あんまりしつこくすると、このエロい動画、間違って流失させちゃうよ?だから、おとなしくしててね、尻軽ちゃん」

ーーゲラゲラ笑う声が続く

……沈黙……


参列者のざわめきの中から一言


「……クソかよ」


新婦はショックのあまり震えている。

どういう事だ!と新婦側の親族が責める中


新婦が指輪を引き抜き新郎に投げつけて泣きながら出て行った。


新婦側から、式の中止の詫びと後日事情説明の断りをして

会場を出て行った。


残された新郎側も怒号が響く。


なんとかしろと親友が俺に詰め寄る。


俺の背広を握りしめる手が白くなっている。

俺はその冷たくなった拳を力任せに引き離した。


****


これは復讐なんだよ。


過去、俺の初めての恋人を賭けの遊びとして誘惑された。


彼女は俺と俺の親友の板挟みに悩み

真剣に自分を思ってくれる熱意についつい絆されて一夜の過ちを犯した。


泣きながら俺に謝って来たよ。

俺はお前の悪趣味な遊びを知ってたし、友達の彼女を落とすという

くだらない遊びをしたかっただけだって

分かりきってたから許そうと思った。

むしろアイツが友達じゃなかったら目をつけられる事もなかっただろう。


でも、噂は広まり、彼女は大学に居られなくなった。


そして失意のまま自主退学


許せない


俺にお前の女すぐ誘惑に乗ったぜっ


と笑い話にしたお前を


絶対許せない。


だからお前が最高に幸せな瞬間を叩き潰そうと、ずっとそばで機会を狙ってた。


お前が遊んで捨てた彼女達に辛い思いをさせたくないと

話を聞いてあげたのもこのためだ。

立ち直った女もいるが、傷が癒えないまま踏み出せずにいる女達も居た。


ーーだから協力してくれるかどうか打診したんだ。


女達だって、覚悟の上でここに来てる

絶対にお前を幸せなんかにしないと


お前は全然、彼女達を思い出しもしなかった。

所詮、過去の罪悪感なんてかけらも無い。



新婦側の怒りが収まらずに、結婚は破談

多額の慰謝料が請求された。

顔を潰されたと会社も解雇。

ここまでひどい男だったと、嘆いた親族からも絶縁。


チャラい親友は全てを失った。


俺も責められたが

復讐をした彼女達が擁護してくれた。



彼女達はその後、この騒動を起こしたことよりも

あまりにも不誠実な態度をとった新郎の家族からお詫びをされたらしい。


皆、これで忘れられそう、次に進める、と晴れやかに笑っていた。


俺の元彼女も

今は田舎で出会った男と幸せに暮らしてると聞いた。



やっと前に進める


復讐は成功した。

これから、俺は自分の人生を始める。


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祝福の鐘は鳴らない 満月 花 @aoihanastory

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