第9話 魔石が欲しい


 魔具に使うための魔石は無尽蔵ではない。

 手持ちの魔石は、全部の種類を合わせて20個くらいだ。


 魔具1個に平均して2~3個の魔石が必要になることを考えると、そろそろ調達しないとマズイ。

 ちなみに今までの魔石は全部、エルフの里を脱出する時に盗……拝借したものである。


「ふーむ。どうしたものか」


 早くも工房の運営に暗雲が立ち込めてきた。

 ガワに使う素材も重要だけれど、魔石は替えが利かないのでどうにもならない。


 ファザール村にも売ってないので、自分で何とかするしかなかった。

 聞いた話によれば、魔石を手に入れる方法は2つある。


 1つは採掘だ。

 魔力を帯びた山を掘れば出てくるらしいけれど、近場に採掘場がないため、今のところは現実的な手段ではない。

 将来的に鉱山が見つかった時のために、露天掘りの技術でも開発しておこうかな? いやさすがに無理か。


 そしてもう1つは、魔物の討伐だ。

 この世界における魔物は、魔石に肉や思念が結びついて生じたバケモノである。倒せばコアである魔石を落とすことがあるのだった。


 ただ、私は運動神経ダメダメの出不精エルフだ。いくら優れた魔具を持っているとはいえ、豆腐メンタルの私に戦えるかどうか……。


 そういえば、クロエさんは無事だろうか。

〈十種杖〉を持って森の奥へ行ったきり、しばらく音沙汰がないけれど……。

 できればクロエさんには魔石をとってきてほしいなあ、なんて。


『ならば吾輩が魔物を狩ってこようか?』


「え?」


 まるで心を読んだかのようにウィリアムが思念を飛ばしてきた。

 彼は私の隣でネコジャラシの玩具(私が作ってあげた)で遊んでいる。

 可愛いね、私もご一緒していい?


『では一緒に遊ぼうではないか。このネコジャラシとやらを我の前で振ってくれると助かる』


「あれ? もしかして心読んだ?」


『いかにも。吾輩は聖獣であるゆえ、相手の考えていることが大体分かるのだ』


 薄々気づいていたけれど、うちの猫って実はものすごい大物なんじゃ……。

 しかも一人称が「吾輩」である。あんたは夏目漱石か。


「えっと、聖獣って何?」


 私はネコジャラシを揺らしながら質問する。


『聖獣とは知恵と聖性を宿した獣のことだ。魔石から生まれる魔物とは異なり、神の祝福を受けて自然から生まれる。その姿かたちは千差万別だが、吾輩は愛らしい猫の姿となってこの世に誕生した。つい3か月前にな』


 正直何が何やらといった感じだった。

 この世界では分類学がまったく発達していない。ウィリアムは自分のことを聖獣と称するけれど、実際はもっと別の何かという可能性も捨てきれなかった。これはまあ、月日が経って整理されていくのを待つしかあるまい。


「よく分かんないけどすごそう」


『すごいのだ。吾輩を飼える主は幸せ者だぞ』


 ウィリアムはネコジャラシを必死で追いかけながら語っていた。

 可愛らしい見た目と渋いセリフが一致しなくない?


 私が会話してる相手ってウィリアムで合ってるよね? 実はクローゼットの中のおじさんがアテレコしてました、とかだったらトラウマ級なんだけど?


『そのようなことはないから安心してくれ』


 よかったよかった。

 それはともかく。


「ウィリアム、さっき魔物を狩るって言った?」


『いかにも。吾輩は生まれたてではあるが、神から与えられた特殊な技を使うことができる。低級の魔物であれば難なく狩れようぞ』


「おおー! すごいすごい!」


 それが本当なら棚から牡丹餅どころではない。


 工房を続けていくためには、原材料となる魔石の確保が必須。ウィリアムがその役を担ってくれるのなら、私は心置きなく魔具の製作に集中することができる。


『折を見て魔物を狩ってこよう。主から食物をいただいている礼でもある』


「大好きウィリアム」


『うむ……』


 背中を撫でてあげると、ウィリアムは満更でもなさそうに目を細めた。実はこれが初めてのナデナデである。ふわふわだ……。


 前世はずっとマンション暮らしだったため、ペットは飼いたくても飼えなかった。その鬱憤をウィリアムで晴らしまくろう。具体的にはことあるごとにナデナデしまくろう。


『前世……? 主はおかしなことを考えるのだな』


「あ、これに関しては無視でOKね」


『承知した。以後触れないようにする』


 物分かりのいい子猫ちゃんだ。

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