第2話 わたしが、堕天使の首領である!

 ルシフェルははるなを相手に自分の履歴を話している.


「でな、神の軍隊と俺らの間で戦争が起こったってわけだ.こちらの味方は中東、インド、ギリシャ・ローマ、東洋の名だたる神々、精霊の親玉たちが勢揃いさ.敵方にしてみれば、地獄の堕天使とか、悪魔ということになるらしいがね.」

「ふーん」という感じで、特に話に対するはるなの拒絶反応はない.別にキリスト教徒でも、イスラム教徒でもないので.あとはユダヤ教徒か.


「ギリシャでは、ゼウスっていうのは俺のことだ.ルシフェルと呼ばれるのが好きで皆にはそう呼んでもらっているがな.オリンポスの12神ってのはギリシャのご当地神様で、皆、親子兄弟、、夫婦に親戚同士だ」はるなは神話にはあまり詳しくはないがなんとなく聞いたことがある話ではある.


「中東に行くとな、たとえば、ベルゼバブ、別名、蝿の王ってやつだ、知ってる?」「知らない」、とはるなは首をふった

「あとは、バール、こいつは知ってるだろ」「いいえ」、とはるなはまた首を振った.

「あとは悪の女神アシュタルテ、こいつは知ってるだろ?」「知らない」


敵の軍勢は、神の側近の天使たちだ

「まずは、神の近衛兵隊長は、ミカエルだ、英語を喋る奴らは、マイケルと呼ぶことが多いがな」

「知ってるー.ミカエル様、かっこいいよね」

「それにラファエル」

「お告げを言いに来た人、キリスト復活の」(うー厳密にはそれはこいつじゃなくて名もない天使らしいがな)

「あとはガブリエル」

「知ってる知ってる、受胎告知でしょ、神様のお使いでマリア様の妊娠を知らせに来た人」

「お前な、なんで敵のやつばっかり知ってんだよ」

「だってミカエル様かっこいいし、有名人でも多いのよ、マイケルって人」としゃあしゃあというのでルシフェルはちょっとイライラした.

「ハーバードだっけ、偉い学者のミカエル(マイケル)・サンデル」

「ポップの王様、ミカエル(マイケル)・ジャクソン」

「バスケットボールは、ミカエル(マイケル)・ジョーダン」

「ふん、ミカエル、ミカエル、ミカエル、どいつもこいつもミカエルだ、あー腹が立つ、誰か、ルシフェル・ジャクソンとかいう名前の有名人はいねえのか」

「あまり聞いたことないわね.やっぱり神様に逆らったからじゃないの?知っててもあえて名前を出さない的な、仲間と思われたら嫌じゃない?大変じゃない?」


いつの間にか二人は、四人まで乗れるブランコに座って話し込んでいた.この遊具もロープによるぐるぐる巻きの緊縛から解放されている.


「それで、あなたは結局誰なの?空から落ちてきたお星様?神様の不良息子?それとも悪党の親玉?あ、そうだ、戦争犯罪人で指名手配中だから、逃げてきたとか?」

「あのな、お前、人の話聞いてたか、俺は、元はといえば神の子、七色に輝く天界随一の大天使で、名前はルシフェル、ある時親父である神と意見が対立して、追討されそうになったからこっちも挙兵した.負けて地獄に落とされたりしたけど、今は空から人間のことを見てたってわけだ、たった今話したろ」

「ふーん、じゃ見せて、天使のカッコ」

断るのが普通だと思うのだが、待ってましたとばかりにルシフェルは立ち上がった.


「おうよ、その目、かっぽじってよく見とけ」とブランコから降りた彼はちょっと広いところに立った.舞台の真ん中に立つ感じだ.しかし考えてもみ、なんで天使のカッコ見せて、といって「おうよ」となるか?自己顕示欲満々の大天使だ.


「いやそれはあの今は・・・」とか

「いや、初めて会ったばっかりでそこまではちょっと・・」とか

「お互いをもう少しよく知ってからの方が・・・」とか

ちょっとはもったいつけるとか、尻込みするのが嗜みってもんだろう、そうでないかえ?と言われそうなのだが、彼の場合違う.「おうよ」と舞台の真ん中に立ち、変身する気満々である.


 ルシフェルは、密教のような、印を結んでから何やらぶつぶつと呟いく.後から聞いたら、「オン マユラ キランデイ ソワカ (oṃ mayūra krānte svāhā)」

と言っているらしい.この真言は、孔雀明王の力を借りて、魔除け、病気平癒、災難消除などのご利益を願う際に唱えられる.ルシフェルは中東の神様?なんでインドの神様の呪文?と思うかもしれないが、神の存在は普遍的だから、時空を越えるのはもちろん、国やら地域を容易に越えることができる、ということらしい.

 真言をとなえた後、両手を広げて天を見上げて叫んだ「うおー」と言っているように聞こえる.空は急に曇ってきた.綺麗な星空は見えなくなった.風があちこちから吹いてくる.地面から、さっきまで話をしていた草花たちが「わー」と一斉に飛び出してきたように見えた、そして舞い上がり、同時に天に向かって七色の光が、ごちゃ混ぜに、渦巻きのように噴き上がり、やがてそれは白色光に変わり、足の下から頭の先まで、彼の体の周りを何周もぐるぐると旋回する.それに伴ってルシフェルの体はどんどん大きくなっていく.次第に、羽が生え、その羽が七色に輝き始めた.ルシフェルの頭にはツノのようなものが生えてきた、ように見えたがちょっと遠くてわからなかった.


ルシフェルの大天使姿を呆然と見上げていたはるなの顔はみるみる、喜色に満ちて、呟いた

「くわっこいい!」

「ねえ、もおいいかい?戦争でもないのにこのカッコつかれんだよな.」早くも疲れたのはルシフェルは元の姿に戻りたがる.

「あ、そうか、いいよ元の姿に戻って」


 光が消えて、ルシフェルは元の姿に戻っていた.しかし着ていた布きれは全部ちぎれ飛んでしまいルシフェルの股間・局所のおぞましいものどもはその場に陳列されることとになった.「きゃー」叫ぶか早いか、ルシフェルは、はるなのビンタをお見舞いされその場に失神していた.



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