第20話 倉庫の呪われた発明品
朝。
父上が珍しく屋敷を留守にした。
この時点で、僕はすでに嫌な予感しかしなかった。
「若様ー! 今日こそ整理整頓デーですよー!」
リリィが笑顔で掃除用具を抱えて現れた。
その笑顔がもうフラグにしか見えない。
「えっと、整理ってどこを?」
「地下倉庫です! 旦那様のご命令で、古い道具を片付けておけって!」
「父上の……? いやな予感しかしないんだけど」
「だいじょうぶです! 私がちゃんと確認してから触ります!」
「それが一番危険な宣言なんだよ……!」
◇
倉庫の扉を開けると、そこはもう別世界だった。
巨大な歯車、錆びた鎧、用途不明の魔道具が山積み。
まるで文明崩壊後の研究室だ。
「すごいです若様! 宝の山ですよ!」
「いや、ゴミの山だよリリィ。もはや“産業廃棄物”の神殿だよ」
リリィはキラキラした目で奥へ進み、
棚の上の箱を引っ張った。
「これなんだろう……?」
「ちょっと待って、触っちゃ──」
バチィン!
「きゃっ!」
「リリィ!? 今の音なに!?」
「なんか……ピカってして……ボタンが光りました!」
嫌なパターンだ。
完全に“起動してはいけない何か”を起動した音だ。
箱の中から、低い機械音が鳴った。
「……魔導清掃装置、起動シマス」
「おい待て! 清掃って言っても嫌な予感しかしないぞ!」
床が震えた。
埃の中から、鉄の塊が姿を現す。
半球状の体に八本の脚、赤い魔力ランプの目──
「……これ、掃除機……だよね?」
「たぶん……しゃべる掃除機……です!」
「どっちでも嫌だぁぁぁ!!」
◇
「清掃ヲ開始シマス」
ズガガガガガ!!
床の上を滑るように動き出したその魔導掃除機は、
埃だけでなく、家具も吸い込み始めた。
「ちょ、吸引力が尋常じゃない! 机が浮いたぞ!!」
「リリィ、止めて!!」
「止め方がわかりませんー!!」
「説明書! 説明書を探して!」
「紙が全部吸い込まれましたー!!」
「終わったぁぁ!!」
セバスが階段の上から静かに現れた。
表情はいつもの無表情だ。
「若様、何事でございますか?」
「何事じゃなくて何事“です”!! 掃除機が反乱してる!!」
セバスは一歩前に出て、指先を軽く鳴らした。
「制御封印──解除」
ピタッ。
魔導掃除機が一瞬で停止した。
「……え?」
「旦那様の旧式発明でございます。暴走防止の呪文を知っておりましたので」
「知ってたなら早く言ってよぉぉ!!」
セバスは無言で魔導掃除機を持ち上げ、
まるで生ゴミのように片手でひょいと持っていった。
「倉庫の整理は、しばし私が引き受けましょう」
「はい、お願いしますもう……ほんとにお願いします……」
リリィは床にぺたんと座り込み、涙目で僕を見上げた。
「ごめんなさい若様……わたし、またやっちゃいました……」
「……うん。もう慣れたけど、今日のはちょっとレベル高かったね」
「が、がんばったんですけど……」
「わかってる。次からは“ピカピカ光ったもの”は触らないようにしようね」
「はいっ!」
まるで反省のない笑顔。
天使みたいな顔でカオスを撒き散らす。
リリィ、君は平和の敵かもしれない。
◇
夕方。
父上が帰宅した瞬間、セバスが静かに報告した。
「倉庫の整理中、例の発明が再起動しました」
「なに!? “例の”とはまさか──!」
父上の顔が一気に青ざめた。
珍しい。あの豪胆な男が怯えるなんて。
「アル! その掃除機、壊してはいないだろうな!?」
「いや、セバスが止めたけど……」
「ふははは! よくやったセバス! あれは我が若き日の最高傑作だ!」
「最高傑作で屋敷が吹っ飛ぶところでしたけど!?」
「性能が高い証拠だ! 優秀な道具は破壊力も比例する!」
「物騒な哲学やめてぇぇ!!」
リリィが恐る恐る手を上げた。
「あの……お掃除機さん、すっごくがんばってました!」
「うむ、やはり我が作品は民のために働く! 次は屋敷全体を清掃させよう!」
「絶対ダメだ父上ぇぇぇぇ!!」
その日、僕は決意した。
この家の“バグ修正”は、まだまだ終わらない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。