第20話 倉庫の呪われた発明品

朝。

父上が珍しく屋敷を留守にした。

この時点で、僕はすでに嫌な予感しかしなかった。


「若様ー! 今日こそ整理整頓デーですよー!」


リリィが笑顔で掃除用具を抱えて現れた。

その笑顔がもうフラグにしか見えない。


「えっと、整理ってどこを?」


「地下倉庫です! 旦那様のご命令で、古い道具を片付けておけって!」


「父上の……? いやな予感しかしないんだけど」


「だいじょうぶです! 私がちゃんと確認してから触ります!」


「それが一番危険な宣言なんだよ……!」



倉庫の扉を開けると、そこはもう別世界だった。

巨大な歯車、錆びた鎧、用途不明の魔道具が山積み。

まるで文明崩壊後の研究室だ。


「すごいです若様! 宝の山ですよ!」


「いや、ゴミの山だよリリィ。もはや“産業廃棄物”の神殿だよ」


リリィはキラキラした目で奥へ進み、

棚の上の箱を引っ張った。


「これなんだろう……?」


「ちょっと待って、触っちゃ──」


バチィン!


「きゃっ!」


「リリィ!? 今の音なに!?」


「なんか……ピカってして……ボタンが光りました!」


嫌なパターンだ。

完全に“起動してはいけない何か”を起動した音だ。


箱の中から、低い機械音が鳴った。


「……魔導清掃装置、起動シマス」


「おい待て! 清掃って言っても嫌な予感しかしないぞ!」


床が震えた。

埃の中から、鉄の塊が姿を現す。

半球状の体に八本の脚、赤い魔力ランプの目──


「……これ、掃除機……だよね?」


「たぶん……しゃべる掃除機……です!」


「どっちでも嫌だぁぁぁ!!」



「清掃ヲ開始シマス」


ズガガガガガ!!


床の上を滑るように動き出したその魔導掃除機は、

埃だけでなく、家具も吸い込み始めた。


「ちょ、吸引力が尋常じゃない! 机が浮いたぞ!!」


「リリィ、止めて!!」


「止め方がわかりませんー!!」


「説明書! 説明書を探して!」


「紙が全部吸い込まれましたー!!」


「終わったぁぁ!!」


セバスが階段の上から静かに現れた。

表情はいつもの無表情だ。


「若様、何事でございますか?」


「何事じゃなくて何事“です”!! 掃除機が反乱してる!!」


セバスは一歩前に出て、指先を軽く鳴らした。


「制御封印──解除」


ピタッ。


魔導掃除機が一瞬で停止した。


「……え?」


「旦那様の旧式発明でございます。暴走防止の呪文を知っておりましたので」


「知ってたなら早く言ってよぉぉ!!」


セバスは無言で魔導掃除機を持ち上げ、

まるで生ゴミのように片手でひょいと持っていった。


「倉庫の整理は、しばし私が引き受けましょう」


「はい、お願いしますもう……ほんとにお願いします……」


リリィは床にぺたんと座り込み、涙目で僕を見上げた。


「ごめんなさい若様……わたし、またやっちゃいました……」


「……うん。もう慣れたけど、今日のはちょっとレベル高かったね」


「が、がんばったんですけど……」


「わかってる。次からは“ピカピカ光ったもの”は触らないようにしようね」


「はいっ!」


まるで反省のない笑顔。

天使みたいな顔でカオスを撒き散らす。

リリィ、君は平和の敵かもしれない。



夕方。

父上が帰宅した瞬間、セバスが静かに報告した。


「倉庫の整理中、例の発明が再起動しました」


「なに!? “例の”とはまさか──!」


父上の顔が一気に青ざめた。

珍しい。あの豪胆な男が怯えるなんて。


「アル! その掃除機、壊してはいないだろうな!?」


「いや、セバスが止めたけど……」


「ふははは! よくやったセバス! あれは我が若き日の最高傑作だ!」


「最高傑作で屋敷が吹っ飛ぶところでしたけど!?」


「性能が高い証拠だ! 優秀な道具は破壊力も比例する!」


「物騒な哲学やめてぇぇ!!」


リリィが恐る恐る手を上げた。


「あの……お掃除機さん、すっごくがんばってました!」


「うむ、やはり我が作品は民のために働く! 次は屋敷全体を清掃させよう!」


「絶対ダメだ父上ぇぇぇぇ!!」


その日、僕は決意した。

この家の“バグ修正”は、まだまだ終わらない。

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