書籍化決定!!したらS級美少女の先輩が通い妻になった
アライコウ
1-1 念願の書籍化
「おはよう、タダヒト先生!」
「僕も昨日初めて読んでみたんだけどさ、面白かったよタダヒト先生!」
「あー、俺もタダヒト先生みたいに作家を目指そうかな~」
先生と呼ばれるのは好きじゃない――いつだったか、あるベテラン作家がSNSでつぶやいていた。
本当は嬉しいんじゃないの? とよく知らない自分は思っていたものだけど、今となっては俺もその作家とまったく同じ気持ちだ。どうにも体がムズムズしてしまう。
「頼むから先生はやめてくれ……」
何度も言ってるのにクラスメイトの大半はやめてくれる気配がないが、応援の気持ちから来ているのはわかっている。そこまで必死に止めようとまでは思ってはいない。
俺、
俺は小学生の頃からWEB小説の世界にのめり込み、いつしか自分でも書いてみたいと思うようになった。部活動はせず、学校から帰宅したら父親のお下がりのノートパソコンでひたすら書いて、書いて。一冊の本になる目安である十万文字を初めて書ききったのは中学三年生の時だった。
そのあたりから投稿サイトでの評価も少しずつ上がっていった。中には最新エピソードをアップする度に必ずコメントしてくれる人も出てきて嬉しかったものだ。
この頃には、明確にプロ作家デビューしたいという夢を持つようになった。
またひたすら書いて、書いて、これぞという力作を投稿した。それが見事入選してくれたのだ。
この四月、俺の高校二年生の春は、最高のスタートを切ってくれた。ここまではまさに理想の展開だったのだが……。
「我和、今日の放課後は生徒会室に行ってくれ」
ホームルームの最後に担任が言った。一瞬反応が遅れてしまう。
「えっ、なんでですか?」
「学園特別表彰が行われることになったんだ。例の小説家デビューの件だと思うぞ」
おおーっと教室内がどよめき、俺に視線が集中した。
……普通、WEB小説コンテストの受賞者の顔なんて明らかにされないものだと思う。
しかし俺が受賞したコンテストは新設であり、後援に大手マスメディアが付いていた。それでペンネーム「タダヒト」こと俺の授賞式の様子がばっちり報道されてしまったのだ。授賞式については応募規約にもちゃんと書かれていたのだが、うっかり見落としていた。
そんなわけで俺は学園内でちょっとした有名人になってしまい、少し騒がしい日々が続いている。執筆活動については周囲にはずっと秘密にしていたので誤算だった。
だけど、まあ細かいことはいいかとも思い始めている。待ち望んでいた小説家になれるのだ。多少のことはどうだっていいじゃないか。
やがて放課後になり、俺は生徒会室に向かおうとした。
「……生徒会室ってどこだ」
何の委員会にも部活にも入っていない俺は、そんなところには一度も足を踏み入れたことがなかったので、一度昇降口に向かって案内板を確認しなければならなかった。
正直、学園特別表彰とかいうものはどうでもいい。賞状を一枚渡されるくらいのものだろう。しかしそれとは別に、俺は胸を高鳴らせていた。
もしかしなくても、あの人に会えるんだよな。すごく間近で。
ほどなくして生徒会室に辿り着いた。
心臓がドキドキしてきた。ここに、あの憧れの人が……。
「失礼します! 二年の我和です!」
ノックをすると、軽やかでよく通る声が返ってきた。
「どうぞ、入ってください」
俺はゆっくりと扉を開けた。
幅広のテーブルと椅子に、ホワイトボード、資料などを収めたいくつかのラック。あとは何が入っているのか不明なダンボール箱。アニメなどでたまに見る、典型的と言っていいだろう生徒会室の風景がそこにあった。
しかしその中に唯一、フィクションの中から飛び出したような、まばゆいばかりに現実離れしたフォルムで佇む人がいる。
「我和唯人くん、ですね?」
「は、はい」
「ようこそ生徒会室へ。どうぞリラックスしてくださいね」
星空を切り取ったような艶のある黒髪。信じられないほどの小顔に、一流絵師が描いたような整った目と鼻と口が乗っかっている。
そしてその下……制服を前方に大きく盛り上げる胸は、根拠のない噂だが驚愕の三桁に到達しているとも。
学園創立以来の美少女と言われる、生徒会長の
「えっと、その……」
「ふふっ、真天を前に緊張してるの?」
「無理もないな。僕も聖川先輩に初めてお目にかかった時はそうだったぞ」
他の生徒会役員が何か言ってくるが、ろくに耳に入ってこない。
「じゃあさっそくですが、表彰式を行いましょうか。こんな場所で申し訳ないんですが」
聖川先輩が賞状を両手で持ち、ガチガチに緊張している俺の前に立つ。
「本来ならこうしたことは学園長先生が行うのですけど、あいにくと今日は急な出張が入ったそうで。賞状の授与は生徒会長が代行しても差し支えないだろうということになりました」
「そ、そうですか」
よくぞこのタイミングで出張してくれたと、顔もよく知らない学園長に心の底から感謝した。
聖川先輩は賞状の文面を優しい声で読み上げていく。
「表彰状、我和唯人殿。あなたは当学園の学生として文化活動を行い優れた功績を残されました――」
内容はどうでもよく、俺は聖川先輩の声そのものに集中していた。
ふわふわと体が浮いてしまいそうな引力がある。天使の声というのがあるなら、きっとこんな感じなのだろう。声優プロダクションが放っておかないんじゃないかと思った。
俺が賞状を受け取ると、聖川先輩たちは拍手を送ってくれた。
「ホルダーと筒、どっちがいいですか?」
「へ?」
「賞状を持ち帰るのに必要でしょう? お好きなのを選んでください」
「そ、それじゃあ……ホルダーにしようかな」
聖川先輩の声がかかった賞状を、丁寧に丁寧にホルダーに収めていった。
「じゃ、表彰式はこれで終わりね。お疲れさま~」
「悪いけど僕たちはこれから仕事があるんだ」
もっと聖川先輩と言葉を交わしたいと思っていたけど、そんな都合のいいことはないようだ。俺は会釈すると速やかに廊下に出た。
「我和くん」
「えっ?」
なぜか聖川先輩まで廊下に出ていた。
「まだ何か……?」
「……四時半には生徒会のお仕事が終わります。そのあと、ふたりきりでお話しできませんか?」
少し声を潜めて、そんなことを言った。
「近くにコーヒーショップがありますよね。そこでお会いしましょ♪」
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【作者より】
現代のラブコメを投稿するのは初になります。
期待できそうと思われましたら、ぜひとも応援、コメント、何より★評価をお願いいたします。執筆の励みになります。よろしくお願いいたします。
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