第3話
夜のダンジョンに足を踏み入れ、魔物たちを一掃した。
ハロルドの中には、あの時とよく似た感情が再び沸き起こっていた。
ハロルド(どうせお金は帰ってこない。どうせパペットから解放された後は『ぼくを置いていったみんなが悪い!』『酷い目に遭った! みんなが、ぼくにパペットの特徴を教えなかったせいで!』とか言ってくるだろうな……。みんな、もう立て替えるだけのお金は持っていないし、このままじゃ本当にお金が返せなくなる……)
ハロルドは後ろにいる仲間たちに目を向けた。
フランキンは呆れた顔でハロルドを見返した。
マイラーは落ち込んだ顔で、薬瓶を投げようとした腕を下げてしまっている。
ヨアンは何かを察したのか、ニヤリと微笑んだ。
そして、全員の視線が重なった。
ハロルド「…………………………………………」
フランキン「……………………………………」
マイラー「…………………………………………」
ヨアン「…………………………………………」
誰も、何も言葉を発しない。
それなのに、お互いの考えていることが分かったような気がした。
パーティ一行の心が一つになった瞬間だった。
一同((((よし……
カテラから向けられた、魔法の杖がビリビリと光り始めている。
何か遠距離攻撃を放ってくるようだ。
一同は、武器を構えた。
パペット「クックック……! やはリ人間の心ハ弱い!」
魔法の杖から一筋のレーザーが放たれた。
直後、ダンジョンを埋め尽くすほど太いレーザー光線がパーティ一行を貫いた。
ビリビリビリビリビリビリビリ……………………!!!!!!!
ヨアン「ハロルドくん!」
ハロルド「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」
レーザー光線の中で、大きな爆裂が起こった。
距離をとっていたはずのカテラやパペットも、あまりにも強い熱風に焦がされそうになる。
パペット「な、なンだ、なンダ?」
パペットがレーザー光線を止めた時だった。
ハロルド「死ねやカテラァァァァァァァァ!!!!!」
真っ赤な炎に包まれた剣が、カテラの頭上に振り下ろされた。
パペット「ナっ!?」
慌ててカテラごと避けるが、避けた先からも鋭い刃が襲いかかってきた。
フランキン「俺たちの復讐、受けてもらおうか!!」
パペット「ま、待テ待て! 人間ドモ、こいつガどうなってモ……!」
パペットは触手をカテラの首に回した……が、その触手に液体がかかった。
パペット「熱ッ!?!?」
マイラー「外したか……!」
パペット「ハ、はア!?!?!?」
パペットは慌てて後ろに下がると、カテラの腕を操り魔法の杖を向けた。
パペット「い、良いノか!? こいつガ、こいつガ死んデモ!!」
ヨアン「確かに!! 保険金で借金返せるじゃん!!! マイラー、強酸パス!」
パペット「はアアアアアアあああ!?!!?!??」
マイラー「さすがに今は無いわよ!」
パペット「いつもはアルのカっ!?」
ヨアン「じゃあ、ボクの弓矢で……」
ハロルド「待て! トドメはオレが…!!」
パペット「ま、マテ!!!!」
フランキン「いや、俺の斧の方が一発で……!」
パペット「人質ヲ見捨てタのかッ!?!?」
マイラー「毒を飲ませれば、眠るように……」
ヨアン「どっちにしろ、今のカテラ意識無いからっ!!!」
パペット「だカラ、ま、マテ!! 待てト言っていルだろう!!!!!」
ハロルド「じゃあもう全員で!!!!!」
パペット「聞ケっ!!」
ハロルド「金返せやボケェェェェェェェェ!!!!!!!!!!」
フランキン「その命を持ってして償え!!!!!!!!!」
マイラー「誰があんたのことなんか好きになるのよーーーーーー!!!!!!!!」
ヨアン「お願いだから、キミの命貸して!! 絶対にあとで返すから!!!!!」
パーティ一行は全員でカテラに襲いかかった。
パペット「いイ加減にしロ、人間ドモ!!!!!!!!!!!!!」
パペットは触手をさらに増やすと、パーティ一行を縛り上げた。
フランキン「……落ち着いたか? ハロルド」
ハロルド「悪い……頭に血が上って……」
マイラー「な、なんか、みんなして暴れちゃったわね……」
ヨアン「人間の自然な感情の一つだから、仕方ないよ」
パペット「だから聞ケと言ってイルだろう」
ハロルド「そういや縛られてたなオレたち……」
パペット「………………人質ハ諦めタのか?」
パーティ一行はお互いに目配せをし、黙ったまま誰も答えなかった。
パペット「答エナいナら、
ヨアン「ああ、そうだよ? もうカテラの会計を立て替えるのは、限界だったからね」
容赦無く口を開いたヨアン。
しかし、パーティ一行は共感するように同じ表情をしていた。
パペット「オ前たち、本当ニ人間か……?」
ハロルド「だって、毎回毎回『お金足りないから代わりに払って! 今度絶対返すから』とか言うくせに絶対に金を返さないし」
マイラー「借金した金額とか、わざわざレシート用意しないと『ぼくはそんなお金払ってない!』って誤魔化そうとしてきたものね……」
フランキン「だが結局、返済額を誤魔化すためにレシートを取り上げて破り捨ててしまったんだ」
ヨアン「そういえば、その時ハロルドくん殴られてなかった?」
ハロルド「レシートを取り返そうとしたら反撃喰らってな。オレのレシートなのに……」
マイラー「でも、返さないくせにお金持ってるのよね〜。好きな女の子に高い物を買い与えていれば、好きになってくれるとかなんとか……気持ち悪いやつだったわ」
ハロルド「他にも……」
パペット「わ、分カった、分かッタ。とニかく、コイツはヤバい奴なんだナ?」
男子三人「「「ああ」」」 女子一人「ええ」
パペット「ドウやら、人質にスル人間を間違エてシマったヨウダな……だが……」
パペットがまじまじとカテラを見つめた。
その間は全員黙っていたが、やがてハロルドはゆっくりと口を開けた。
ハロルド「なぁ、パペット。取引しないか?」
ハロルド以外「「「えっ!?」」」
パペット「何!? 人間ト取引ダと……!?」
ハロルド「ああ。頼む、そいつを……カテラを引き渡す代わりに、オレたちを見逃してくれ」
あまりにも真剣なハロルドの眼差しがパペットを捉える。
パペット「なん……ダと……!?」
ハロルド「パペットが人間を狙うのは、人間が持つ負の感情を糧にしているからだろう? こいつは何かと強欲だし、執念深い嫉妬心を持っている。お前たちにとってはかなりのご馳走になると思うぞ?」
パペット「ま、まア確カに……我々パペットにとってハ良い食料だガ……」
ハロルド「オレたちも、もうそいつの世話はできない。だが、オレたちの仲間から無理やり追い出すことは叶わない。はっきり言って、重荷でしかなくなってしまったんだ。お前がカテラを引き取る代わりにオレたちを逃してくれたら、お前たちはご馳走が手に入るし、オレたちはカテラから解放される。そして、オレたちはもうお前たちには関わらない。お前たちもオレたちの前に姿を現さない。どうだ? この取引」
パペット「オ前たち、本当ニ人間か?」
パペット「だガ、まあ良イだろウ。我々の食材ハ命デはなク、感情。永久的で最高級ノ品が手ニ入ったワケだ……」
パペットはカテラを取り込むと、パーティ一行を離した。
ヨアン「これで、ボクたち……!!」
一同「「「「カテラから解放されたーーーーーーーーー!!!!!!!!」」」」
パペット「面白い人間モいるもノだナ……」
パペット「いヤ、あいツらハ人間ではナく……魔物ダ。我々魔物よリも、よっポド魔物してイル」
毎回毎回「お金足りないから代わりに払って!今度絶対返すから!」と言っては絶対に金を返さない奴が魔物に操られて人質に取られたが、せっかくなので便乗して復讐する。 夜桜モナカ @mokanagi-b21
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